http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_1128.html
刑事ドラマの取り調べのシーンで容疑者に出される食事と言えば…そう、カツ丼です。人情派の刑事が差し出すどんぶりが、容疑者の心を開かせます。しかし、実際には取調中にカツ丼が出されることはないと言います。 
逮捕された人の食事は、法律で決められた弁当が支給されることになっているからです。この弁当は「官給の弁当」=「官弁(かんべん)」と呼ばれていますが、いま地方では、その業者の確保が難しくなっています。なぜなのか、その実態を取材しました。 

警察署の留置場で支給される「官弁」とはどんなものなのか。まずはそれを知りたいと、私は官弁を作っている岩手県一関市の給食業者を訪ねました。

そこで驚いたのは、官弁には特有の決まりごとがいくつもあるということでした。

まず、魚の骨や串など自分を傷つける道具になるおそれのあるものは使えません。具材を分けるカップもアルミではなく、紙カップです。 

栄養管理も厚生労働省のデータに基づき男女別に徹底されています。 

また、アレルギーをはじめ、外国人に多い宗教上食べられないものを除くなど、個別にも対応しています。

しかも値段は、岩手県の場合、1食415円前後。 
原材料費などが上がっても、この値段はなかなか変わらないといいます。 

価格を変えにくい背景には、逮捕後、検察庁に身柄が送られるまでは警察の管轄、その後は、法務省の予算が充てられるなど、縦割りな仕組みも影響しているとみられています。

さらに、警察署から業者への依頼も特殊です。急な逮捕や釈放もあるため原則当日になるのです。どれだけ作ればいいのか事前に見通しを立てることができません。

訪ねた給食業者では、急な逮捕に備えて土日祝日と担当の職員を割りふっているということでしたが、1か月間の夕食の配達がわずか4食だったときもあったといいます。 

この給食業者の東海林絹子常務は「ほとんど採算がとれない仕事だが、地域に対して役に立つのであれば、私どもはきちんとそれを全うしたい」と話します。

こうした業者に支えられ、岩手県内では年間延べ2万5000人ほど、1日約70人が留置場の中で、欠かさず食事をとっています。 

警察署と契約しているのは、大手弁当チェーン店や仕出し店、ホテルなど、さまざまですが、店自体が少ない地方では業者を確保するのが難しいといいます。

岩手県内で留置場のある15の警察署のうち、9署では入札に手を上げる業者がなく、随意契約となっています。それだけ、利益を上げにくい仕事なのです。 

岩手県警察本部で留置場の管理を担当する横山厚司警部は「いつ留置場に人が入るかわからないので官弁を用意していただくのは大変なご苦労をおかけしている。食事が食べられないということはあってはならないことなので、契約した業者にお願いして提供してもらっている」と話しています。

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