戦後すぐの時期を除き、日本国民は長らく実質増税を経験したことがなかった。
本格的なネット(正味)増税を初めて味わったのは4年前の復興増税、
それと3年前の消費税8%への引き上げだ。消費税導入も税率5%への引き上げも、
いずれも所得税などの減税とセットで実施された中立的な税制改正だった。
それでも長らく歳出拡大を続けられたのは人口増と右肩上がりの成長のおかげだ。
黙っていても税収は増えた。安倍政権の経済政策アベノミクスとは、
要は「増税しなくてもよかったあの時代よ、もう一度」という楽観路線なのである。

しかし、成長だのみの成功体験を低成長時代になってからもひきずりすぎた結果、
日本政府は先進国で最悪の借金財政に転落した。その間、日本の政治に
「真の社会民主主義」は不在だった。財源の裏づけがない社会保障の充実を訴える
政党は数多くあったものの、それに見合うだけの国民負担を求め、まともな
社会制度設計に乗りだそうという政党は見当たらなかった。だから前原民進党が
本気で負担増とセットでの生活保障の充実に挑むのなら、真のリベラル政党を
めざす初の試みとして大いに評価したい。これはひとり民進党だけに
つきつけられた課題ではない。政府が1千兆円超の借金を背負うなかでは、
この問題は本来はまず与党が向き合うべき懸案だろう。

社会人になってからゼロ成長しか知らない30代以下のデフレ世代は5千万人、
人口の4割を占める。この世代を、そして、インフレ世代をも納得させてくれる、
そんな低成長時代の新しい政治のメッセージがそろそろほしい。 (編集委員 原真人)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13117492.html