「ドーハの悲劇」に「ジョホールバルの歓喜」――サッカーワールドカップ(W杯)本大会に日本が出場できるか否かは、国民的な関心事に違いない。だが、50%近くの視聴率を記録し、人々がテレビ放送で一喜一憂した光景は、過去のものとなってしまうかもしれない。

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 2022年にカタールで行われるW杯に向け、サッカー日本代表チームはアジア最終予選を闘っているが、これまで熱戦の様子をリアルタイムで目にした方はどれだけいるだろうか。

 というのも、今回のW杯予選における日本代表の試合は、アメリカを中心に世界中のスポーツゲームを有料配信する「DAZN」が中継することになっている。ホームゲームに限ってはテレビ朝日が地上波で中継するが、仮にアウェーで日本代表の出場が決まるとなれば、その決定的瞬間はお茶の間のテレビでは観られないのだ。

 スポーツマネジメントに詳しい帝京大学経済学部の川上祐司教授によれば、

「テレビ局が撤退した背景には、W杯の放映権料の高騰化があります。1998年フランス大会ではNHKが約5億5千万円で単独購入しましたが、2002年の日韓大会では約60億円となり、18年のロシア大会では約600億円まで跳ね上がった。民放などが共同で購入してしのいできましたが、今回のW杯アジア最終予選を含む28年までの放映権は、FMAという中国系の広告代理店が約2450億円で一括購入してしまったため、日本のテレビ局が束になっても手が出せない結果となってしまいました」

 そこで資金的に余裕のあるDAZNが件の代理店と契約。日本向けの放映権をまとめて購入し、そこから民放に切り売りしたことで、辛うじてホーム分のみが地上波で放送できる格好となったのだ。

「ファン減少に拍車」
「多くの人の目に触れる機会が減れば、日本のサッカーファン減少に拍車がかかってしまうと思います」

 と懸念するのは、サッカージャーナリストの利根川晶子氏だ。

「サッカーが生活の一部となっているイギリスでは、スポーツに限らず世界的なイベントは公平に視聴されるべしと法律で定められ、BBCが放送しています。EUも、W杯など公共性の高い試合を有料放送が独占することを禁止できる権限を加盟国の政府が持っています。日本は欧州と歴史が違うので単純に比較はできませんが、代表戦を地上波で観戦できることが国民にとってどれだけ有意義かは、議論していく必要があると思います」

 かつて日本代表チームでFWとして活躍し、日本サッカー協会顧問を務める釜本邦茂氏は、こうも言う。

「ことの本質は、皆が熱狂する面白い試合を今の日本代表はどれほどやれているのか。Jリーグ発足から30年という節目を前に、当初の勢いや熱気が失われた理由を、選手や関係者は今一度考えるべきではないでしょうか。テレビ局が高いお金を払ってでも放映したくなるような試合をやろう。そんな気概を持ってもらいたいですね」

 日本中がサッカーに熱狂する日々は、果たして戻ってくるのだろうか。