文春オンライン 10/22
https://bunshun.jp/articles/-/48826

 コロナ禍での開催となりながらも、今夏大きな盛り上がりを見せた東京オリンピック。多くの競技が注目を集めたが、スケートボードほど五輪の後に、世間からの関心度が高まった競技はないのではないだろうか。

 五輪閉幕後もメダリストとなったスケートボーダーの姿をあらゆるメディアで見るようになったし、全国各地でスケートパーク建設へ向けた動きが加速していると聞く。

根強いスケートボードに対する社会からの偏見
 女子ストリートで金メダルを獲得した西矢椛選手(にしやもみじ・14)が拠点としている、大阪府松原市の「スポーツパークまつばら」も施設拡充が決まり、東北を代表する施設として評価の高い「寒河江スケートパーク」も補修と改築をスタートさせるなど、全国各地でさらなる環境整備へ向けた動きが加速している。

 しかし、その一方でスケートボードに対する社会からの偏見が、未だ根強いというのも事実だ。

 京急電鉄が進めた東京都大田区の糀谷駅付近の高架下のスケートパーク&ショップ事業は、その最たる例と言えるだろう。パーク自体は完成しているにもかかわらず、地域住人からの苦情により計画が頓挫、最終的には中止に追い込まれ、滑走不可能になってしまったのである。

 では、なぜ莫大な予算をかけてスケートパークを造ったのにも関わらず、利用中止に追い込まれてしまったのだろうか?

 そこには地域住民との埋めようにも埋めることのできない大きな溝があった。

近隣住民からの騒音に対する苦情
 そもそもこの施設は羽田空港の国際化に伴い、大田区の湾岸エリア一帯の駅を全て高架にする街づくりを進めた京急電鉄の高架下活用事業の一環としてスタート。そこに近年のスポーツとしての認知度向上や競技人口の増加を背景に、スケートボードに白羽の矢が立ち、このプロジェクトは動き出したのだ。

 大田区にて長年スケートボードショップ「5050」を営んでいる冨田誠さんをスケートボードパークプロジェクトの運営者に据え、昨年の6月にはパークが完成した。あとはオープンを待つだけのはずだった。

 しかし、そこに待ったをかけたのが、音量検査とプロモビデオの撮影で2日間、日中に4時間滑った際に寄せられた、近隣住民からの騒音に対する苦情であった。

 この施設は、パークの建設前に地域17町会に説明会を済ませており、人々が行き交う駅近の高架下にスケートパークができるため、防音壁を使用し、誰でも自由に見学できるように一部をアクリル壁にするといった配慮も見せていた。

 しかし、パーク上部、高架のすぐ下に開いた1.5mほどの隙間から漏れた音に対し、日中の数時間の滑走の際に出た騒音に近隣住人は猛反発、あまりの声に事業を精査し直さざるをえなくなってしまったのだ。 

スケートボードが抱える根深い問題
 苦情への対応策は、開いた隙間を塞ぐこと以外になかった。

 ただそうすると、今度は施設全体が構造物になってしまうため、基礎工事からやり直さなければいけなくなってしまう。修繕にかかる費用はおよそ1億5000万円。京急が負担すると、いくら営業をしても採算がとれなくなるという試算が出てしまったことで、八方塞がりとなり、事業自体が中止になってしまったのだ。

 事業中止の背景には、騒音検査で想定以上の音が出てしまったのもあり、そこに対して反対の声があがるのも無理はない。

 しかし、取材を進めるとそれだけに収まらない、スケートボードが抱える根深い問題が見えてきた。

 というのも、そもそもこのエリアは高架上を電車が走っているだけでなく、東京の幹線道路のひとつである環状8号線にも面しているので、以前から日常的に騒音に晒されている地域なのである。

 電車やバイクが通過する音も規定値を超えており、パーク完成時の騒音検査で出た音量と何ら変わらないそうだ。

地域住民との隔たり
 もちろん電車などの交通音は常に出続けているわけではないが、それはスケートボードも同様で、技を繰り出す際のデッキ(ボード)を弾く音やレールなどのセクション(障害物)を捉えた時に響く甲高い音などは、ほんの一瞬だけである。

 さらにこのスケートパークの滑走面はスムースなコンクリートなので、ただ滑るだけでは騒音と呼べるほどの大きな音は意外と出ないものなのだ。そう考えると、苦情の原因がスケートボードの滑走音だけなのかというところにも疑問符がつく。

 そこで苦情の更なる詳細な内容を聞いていくと、おぼろげながら地域住民との隔たりが見えてきた。
(以下リンク先で)