阪神は11日、名古屋遠征中の9月19日の会食で新型コロナウイルス感染拡大防止のため定めた球団内規に違反した、福留孝介外野手(43)ら10選手、チームスタッフ1人に制裁金を課す処分を発表した。すでに揚塩健治球団社長(60)も12月1日付での辞任を発表するなど、球団は混乱した事態の収拾に躍起だが、“本丸”をやり過ごして幕引きなど許されない。現場の最高責任者、矢野燿大監督(51)も夏場の遠征中に大人数で会食していたことが、夕刊フジの取材で判明した。しかも当時、球団側は事前に内規違反だと知りながら黙認。この問題を隠ぺいしたまま、選手だけを処分したのだ。親会社が厳命した「ケジメ」をつけるため、組織の膿を出し切る覚悟が本当にあるのか。(山戸英州)

 揚塩社長は9日の辞任発表会見で、「フィールド外についてはフロントのトップである私の責任。監督には責任はございませんと伝えた」と最後まで指揮官をかばったが、ものの見事に裏切られていたことになる。

 複数のチーム関係者の話を総合すると、矢野監督は夏場のある遠征中の試合後、球団の指定日に外食に繰り出した際、内規で定められた「4人以内」を大幅に上回る人数の選手、関係者らを飲食店に連れ出したという。

 メンバーには売り出し中の若手野手、指揮官が評論家時代から野球センスを褒めていた捕手らが含まれていたという。上下関係が厳しいプロ野球の世界。まして監督からの誘いとなれば断れないのは当然として、人数オーバーの問題も誰も指摘できまい。もちろん、指揮官自身は内規違反を認識していた。出かける前に、球団本部のチーム運営責任者に対して、大人数で会食に繰り出す旨を報告していたことも分かっている。

 振り返れば、3月に球界初となる藤浪ら3選手の感染発覚後、矢野監督は「球界、地域の皆さんに迷惑をかけた。反省と、責任はうちにあると思う。しっかり受け止めないとダメ」と真摯に謝罪していた。ところが2度目の福留らの複数感染には、「ちょっと言葉が難しい。なんとも言いようがない」と不可解なまでに歯切れの悪いコメント。自らの行動に照らして、後ろめたい気持ちがあったのかもしれない。

 チーム内では9月に感染者が続出して以降、「あの会食がバレたら一大事になる」との声がくすぶっていた。矢野監督の件は伏せられたまま、この日になって11人に処分が下され、「この組織はどこまで腐ってるんですかね!」という憤りも聞かれる。一方で、半ばあきらめ気味の「監督も内規違反していたなら、ちゃんと処分されるべき。でも、監督にリポートを書かせたり、制裁金を徴収するのはさすがに難しいでしょうね」というため息も。

 つまり阪神において内規とは、立場の強い者はこっそりお目こぼしされ、立場の弱い者だけが順守を求められるものなのだ。これでチームの規律や統制が保たれるはずがない。

 7日発行の夕刊フジでは、球団親会社の阪急阪神ホールディングス角和夫代表取締役会長CEO(71)が夕刊フジの直撃に対して、コロナ関連の不祥事が続く球団に「ケジメが必要」と力説。グループ総帥の一喝に呼応するように、その2日後に球団社長が辞任発表、さらにその2日後には選手らの処分も発表と、球団は事態の収拾を急いでいる。だが、現場トップの内規違反を見過ごした「ケジメ」などあり得ない。

 夕刊フジは信賞必罰と程遠い球団の実態について、角会長を再直撃。重大な関心を寄せた同会長は、「ルール違反はやはり問題。今回、対象になった人だけの処分だと不公平になる。それ以外の人の調査を12日より(阪急阪神HDの)杉山(健博)社長にしてもらいます。今シーズンオフの選手たちの過ごし方の規律についても、球団には考えてもらわないといけない。そこへの対策とともに、その前段階としてきちっと調べてもらう」と、親会社による内部調査を厳命する考えを示した。

 矢野監督は今季が3年契約の2年目。首位巨人と13ゲーム差の2位という成績の評価は難しいものの、一連の不祥事を受けても藤原崇起球団オーナー(68)は、来季続投の方針に揺らぎはないという。だが、指揮官の裏切り行為が白日の下にさらされてもなお、この既定路線を推し進めることに、果たしてグループ内の総意は得られるだろうか。球界の一寸先は闇。事態の大きさを鑑みれば、進退問題に発展しても不思議はない。

夕刊フジ
10/12(月) 16:56
https://news.yahoo.co.jp/articles/d692c2c092fb749e160126ec76c89428d1757b91