新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて中断していたプロボクシングは、12日から興行を再開する。16日には東京・後楽園ホールで、ロンドン五輪銅メダリストで東洋太平洋フェザー級王者の清水聡、日本スーパーライト級王者の井上浩樹(いずれも大橋)のタイトルマッチ2試合が無観客で行われる。興行主は世界ボクシング協会(WBA)、国際ボクシング連盟(IBF)バンタム級統一王者の井上尚弥らが所属する大橋ジムの大橋秀行会長(55)。赤字覚悟で実施を決断した理由を聞いた。(森合正範)

 プロ野球、サッカーのJリーグが、開幕や再開へ向けて話を進めていた5月上旬。大橋会長は危機感を覚えた。「このままずるずる遅れちゃうとまずいな。ボクシング界のために、自分がやらないと」。先陣を切って今回の興行の日程と対戦カード、無観客での実施計画案を日本プロボクシング協会と日本ボクシングコミッションに提出した。先行き不透明で興行主の誰もがためらう中、風穴をあけた。
 「注目される東洋太平洋と日本のタイトル戦ならボクシングの存在感をアピールできる。もし『観客あり』にして、興行が中止になったら選手に申し訳ない。だから最初から無観客に決めた」
 とはいえ、無観客での開催は興行主にとって死活問題。テレビなどの放映権料、スポンサー料などで一定の収入が得られるプロ野球やJリーグと違い、ボクシングは収入の大部分を興行の入場料で賄っている。
 大橋会長によると、今回の興行の開催では、2試合のファイトマネーや会場使用料などで計700万〜800万円がかかる見込み。試合はテレビ放映され、スポンサーからの協力はあるものの、数百万円の赤字は確実だ。周囲からは開催に反対の声も上がったという。
 だが、業界大手で多くの有力選手を抱える大橋会長の決意は揺るがない。ボクシング界への感謝と未来への希望が詰まっていた。「協会や他のジムの皆さんが(パートナーとして)練習を支えてくれ、協力があって井上尚弥らができた。その恩返しじゃないけど、今できることをしたい。自分のジムだけよくても困る。今後、ボクシング界全体をもっと盛り上げないと」
 コロナ禍で閉塞(へいそく)感のあったボクサーたち。興行が決まり、ジムの雰囲気は一変し、活気が出てきた。
 ジムの入り口には自動体温計装置が設置され、試合前日には選手らがPCR検査を行う。ウイルスの感染対策に抜かりはない。「まずは興行を無事に終えること。今回(の支出)は大橋ジムとボクシングの広告宣伝費だと自分に言い聞かせている。選手も『試合がやれる』とモチベーションが上がってきた。それがうれしい」。ビジネスを超越したボクシング界への思いをにじませた。

ソース 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/40103
マスク姿でスパーリングを見守る大橋ジムの大橋秀行会長=横浜市の大橋ジムで
https://static.tokyo-np.co.jp/image/article/size1/e/5/f/9/e5f9116536923ed35c1f12f0334edfba_1.jpg