長く続く大リーグ機構(MLB)と選手会のシーズン開始に向けた交渉も、ようやく佳境を迎えているのだろうか。

16日にはロブ・マンフレッド・コミッショナーと選手会のトニー・クラーク専務理事が会談し、争点だった「選手の年俸は日割りで全額保証」という点にリーグ側が同意したという。

まだ両者の希望する試合数に開きがあり、楽観はしきれない。それでも今後も歩み寄りが継続されるなら、遠からずうちの合意に期待が膨らむ。

 ここに至るまで、泥沼の交渉で大リーグ全体のイメージが悪くなってしまった感は否めない。

機構側、選手会側がそれぞれの利益確保を主張するのは当然としても、パンデミックで多数の失業者が出ている中で、「銭闘」を続けた金持ちたちが冷たい視線を浴びせられるのは仕方ない。

 アメリカのスポーツファンの反応も、大リーグに対しては「怒り」「嘲笑」「無関心」が多いように感じられる。今後、開幕に近づいても、一部の熱心なファン以外は冷ややかなままかもしれない。NBA、NFL、テニス、格闘技といった他のスポーツとシーズンがかぶることもあり、大リーグのテレビ中継は視聴率面で苦しんでも不思議はなさそうだ。

 また、少し先を考えても、来季いっぱいで現行の労使協定が失効した後、改定協議が難航してロックアウト(施設封鎖)を予想する声も出ている。その過程でファン離れが加速する可能性も否定できず、大リーグは大きな危機を迎えていると言って良いのだろう。

 こんな状況だからこそ、2020年のシーズンはエキサイティングなものになってほしいと願わずにはいられない。そこで思い出したのが、5月下旬、48歳にして日本球界復帰を目指すことを表明した新庄剛志氏を取材した際に聞いた、こんなコメントだ。

 「日本を盛り上げたいね。(コロナ禍で)元気がないからね。俺が復帰することによって記事になるだろうし、盛り上がってくれるだろうし、いろんな人たちが興味本位で試合を見にくるよね。(メジャーから復帰して)日本ハムに入団した時と似ているかもしれないけど、今度は日本中で騒いでほしいかなって」

 かつてメジャーでも活躍した新庄氏だが、現在目指しているのは日本のプロ野球であり、米球界と直接の関係はない。ただ、コロナショックの後で、野球界全体に活力が必要だという意味では日本も米国も同じだ。特に「銭闘」のせいで試合数も少なくなりそうなメジャーには、新庄氏のように「ファンを盛り上げたい」と熱望し、自覚を持ってハッスルし、話題を呼んでくれる選手がどうしても必要なのではないか。

 マイク・トラウト(エンゼルス)、ブライス・ハーパー(フィリーズ)のようなスーパースターの責任は重大になるし、予期せぬ新たなスターの台頭や、ベテランの頑張りにも期待を寄せたい。そして、日本人選手の活躍も、もちろん楽しみにしておきたい。

 筒香(レイズ)、秋山(レッズ)、山口(ブルージェイズ)といった新入団選手たちは、短縮されたルーキーシーズンの中でもフレッシュな話題を提供してくれるだろうか。3年目を迎える大谷(エンゼルス)が二刀流で大活躍すれば、リーグ最大の注目選手になることも可能だろう。デビュー以来、2桁勝利を6年間続けてきた田中(ヤンキース)の記録更新は試合数減により難しくなったが、開幕から勝ち続ければ、ポジティブなストーリーになるはずだ。

 94年のストライキ後、一時的にファンにそっぽを向かれた大リーグ。そんな米球界を98年のマーク・マグワイア、サミー・ソーサの本塁打王争いが救った逸話は、いまだに語り継がれる。同じように、風当たりが強くなったリーグに明るさを提供できるようなヒーローが現れるのかどうか。そんな選手、ストーリーが今どうしても必要に思えるほど、大リーグは瀬戸際に追い込まれている、と考えることもできるのだろう。(記者コラム・杉浦大介通信員)

6/20(土) 9:00