6月19日にようやく開幕したプロ野球。当初は無観客のため、ファンに選手の肉声を届ける報道陣も張り切っていると思いきや、

「正直、商売上がったりですよ。選手とピン(1対1)で話す機会もないんだから」

 そう悲鳴を上げるのはスポーツ紙の巨人担当記者だ。「巨人では3月27日から選手に単独で話を聞ける“ぶら下がり”が禁止され、4月1日から球場など球団施設への記者の立ち入りも禁止になりました」(同前)

原監督ともソーシャルディスタンシング
 仕方なく番記者たちは、球団広報からメールで送られる日々の練習レポートをもとに、自宅で記事を執筆することになった。ただ、内容は練習参加メンバーと、誰がブルペンで何球投げたかなどの簡単な練習内容、そして短いコメントのみ。

 例えばある日の戸郷翔征投手のコメントは「1日1日しっかりと目的意識を明確にしてやっていきます」。外野でノックを受けた坂本勇人内野手は「今日の練習で外野手は断念します。諦めます(笑)」というもの。

 スポーツ紙デスクが嘆く。

「本来なら戸郷の“目的意識”や、外野で練習した坂本の狙いを聞きたい。でも、どこの新聞もコメントをそのまま抜粋する形で掲載するしかなかった」

 5月末から球団施設への立ち入りが許可されたが、

「練習試合が始まっても、選手に直接の取材はできず、声が聞けるのは球団が選ぶ、試合で活躍した1〜3選手だけ。それも広報立会いの下、オンラインの会議システムを通じてです。他球団でも状況は似たり寄ったりですね」(前出・担当記者)

記者たちの危機感「これではネット記事と変わらない」

 何より記者たちが困るのは、選手が病気やケガをしても、球団の裁量如何で表ざたにならないことだ。

「現状では試合開始1時間前しか入場できず、試合前練習を見ることもできない。グラウンドにも降りられず、練習中のベンチ内の様子も見られないため、いるはずの選手やコーチがいないことに気づきにくい」(同前)

 コロナ陽性判定を受けた坂本と大城卓三捕手の“濃厚接触者”となった宮本和知コーチと相川亮二コーチが自宅待機していたことも後になってから判明したという。別の巨人担当記者は「キャップ級のほとんどの記者は自腹で抗体検査を受けていて、みんな陰性です。メディア側の定期的な検査を条件にして、自由取材を認めてほしい」と訴える。

現在、各球団ともSNSでの情報発信が増えているが、前出のデスクは「スポーツ紙もこのまま球団に都合のよい“大本営発表”だけしか報じられないようでは、ネット記事と変わらなくなり、読者もますます離れてしまう。スポーツメディアの危機ですよ」と憂う。

 スポーツ紙記者たちの巻き返しを期待したい。

週刊文春2020/06/22
https://bunshun.jp/articles/-/38538?page=1