2位で迎えた最終節は…

記者席で一瞬、戸惑った。すべての条件が綺麗に揃い、「あれ、これで優勝なんだよな?」と。

 2017年のJ1の最終節。川崎は苦しい立場にあった。首位の鹿島とは勝点2差の2位。ホームで迎えた大宮との一戦は勝利が絶対条件で、磐田と対戦した鹿島が引き分け以下に終わらなければいけない。

 シルバーコレクターと揶揄され、何度もあと一歩のところで涙を飲んできた川崎にとっては、悲願成就へまたも高い壁が待ち受けているように感じられたのだ。

 約1か月前のルヴァンカップ決勝でも辛い現実に打ちのめされていた。下馬評では川崎有利と臨んだ運命の一戦で、まさかのミスもあり、C大阪の堅守速攻のゲームプランにはまって0-2で敗戦。ナビスコカップ時代を含めて“4度目の正直”として臨んだ決勝戦で、またも頂点には届かなかったのだ。

「なぜ勝てないのか」

 打ちひしがれた川崎陣営の表情は今でも忘れられない。試合終了直後は「今はちょっと先のことを考えられない」と口にする選手が大半だった。

 小林悠は「すごく悔しかった。キャプテンだけど人に気を配る余裕はなかった」と振り返り、最終ラインのリーダー谷口彰悟も「ルヴァンでひと区切りっぽい雰囲気が出てしまった」と語る。
 この時点でリーグは残り3戦。メンタルの切り替えは容易ではなかった。それでもチームは再び前を向いて走り出す。守護神・東口順昭のビッグセーブに何度も決定機を防がれた32節のG大阪戦は、82分のエウシーニョの値千金弾で制すと、33節の浦和戦は小林の妻に捧げる“バースデー弾”で首の皮一枚をつなぐ。やや足が鈍って来た鹿島の背中を追走したのだ。

 そして迎えた冒頭の大宮戦。詰めかけた観衆は、シーズン最多の2万5904人。試合前には小林がリーグ200試合出場の表彰として家族と記念撮影し、その光景に笑顔を見せるイレブンの姿があった。大舞台でプレッシャーに押しつぶされてきたこれまでの姿とは違う――なにか特別な予感をよぎらす一連のシーンでもあった。

 ちなみに小林も「実は試合前はちょっと緊張していたんです。でも上の息子が花束を渡してくれる時になぜか泣いていて。その姿がなんだか面白くてリラックスできました。そういう意味では息子に助けてもらいました」と述懐する。

涙のフィナーレを迎える

試合はわずか46秒で阿部浩之が先制弾を奪う最高の立ち上がり。その後はややペースダウンしたが、前半アディショナルタイムに小林が加点すると、後半もペースを握る。小林は81分までにプロ初のハットトリックを記録し、得点王レースでもトップに立つ。

「(ハットトリックの後、チームメイトが)異様にはしゃいでいたので、自分は(鹿島戦で)磐田が点を取ったのかと勘違いしてしまいました。そしたら『(得点ランキングでトップだった杉本)健勇が点を取ってないからお前、単独トップだぞ』と言われて、そっちかよと(笑)。正直、得点王よりもチームタイトルが重要だったので、鹿島戦のスコアのほうが気になりました」

 実を言うと、川崎は鹿島と磐田の情報を遮断して試合に臨む予定だった。実際に鬼木達監督は試合終了までその結果を知らなかったという。

 しかし、川崎のベンチメンバーの間では「鹿島と磐田の試合は0-0で進んでいる」という吉報が回っていた。どうしても気になったという小林もベンチの仲間からジェスチャーで鹿島のスコアを聞き、「このままいってくれ」と強く願っていた。

 
 80分をすぎてスコアは4-0。川崎がほぼ勝利を手中に収めた状況下で、多くの人の意識は鹿島の動向に傾いていた。「逆転優勝を果たせるのはないか」スタンドからも徐々にどよめきが起き始めていた。

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https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200426-00072321-sdigestw-socc&;p=1

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