スポットライトの当たることのない戦場を渡り歩き、ときには「たった100ドル(約1万1000円)」の報酬をポケットに収めながら
戦ってきたテニス界の名もなき歩兵たちは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)によって一晩で仕事を失った。

彼らは今、このままでは食べるものにも困ることになると窮状を訴えている。

テニス界では、新型ウイルスの影響で男女ともにツアーが4か月の中断に入り、多くの選手が生活手段を断たれた。
ジョージア出身のソフィア・シャパタワもそうした選手の一人だ。

シャパタワは、「世界ランキング250位以下の選手は2、3週間もすれば食べ物も買えなくなる」と危機感を口にし、
下部カテゴリーの選手を救ってほしいと国際テニス連盟(ITF)に訴えるが、聞き入れられる見込みは薄いと思っている。

「正直に言って、うまくいくとは思わない」 「今はちょっと手いっぱいだから、できる限り早く返信するとは言われたけど、そのメールの後は何も音沙汰がない」

世界ランキング370位台のシャパタワは、ツアー歴16年になる31歳のベテランだが、主戦場は下部大会であるITF女子サーキット。
セレーナ・ウィリアムス(米国)やロジャー・フェデラー(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、ラファエル・ナダル(スペイン)
といった高収入のスターが活躍するきらびやかな四大大会(グランドスラム)とは別世界の大会だ。

シャパタワはこれまで、シングルスとダブルスで計1500試合近くに出場し、35万4000ドル(約3800万円)の賞金を稼いできた。
しかし2020年はフランスと米国で計5大会に出場しただけで、賞金は3000ドル(約32万円)しか手に入っていない。

それでも、彼女はまだ恵まれている方だと言える。世界ランキングがついている選手は、男女ともゆうに1000人を超える。
現在、女子のランキングで最下位グループにいる27歳のクセニア・コレスニコワ(ロシア)は、今年わずか68ドル(約7400円)しか賞金を稼いでいない。

ランキング100位圏内の選手は割合に裕福だが、そこから漏れた選手は大抵、自国のテニスクラブによるリーグ戦出場や、
コーチ業で得た収入で足りない分を埋め合わせている。

ところが新型ウイルスの感染拡大を食い止めるため、各国政府が大規模な集会を禁止したことで、そうした安定した収入源も干上がった。
シャパタワは自身のブログで「選手たちの声を届けたくて、ITFへの嘆願を始めた。知り合いの選手といろいろ話して、今後3か月の予定を聞いたら、
中には食べる物にも困る人が出てきそうだと分かったから」と話している。

「問題は、このままでは私のスポーツが死ぬということ。テニスが死ぬ。ランク150位以下の選手は現役を続けられなくなる」

新型ウイルスの影響で、シーズンは少なくとも7月12日まで停止する。欧州のクレー大会は全滅で、全仏オープンは伝統の5月中旬から9〜10月開催に延期された。
6月29日開幕のウィンブルドン選手権は中止が決まった。

英国のタラ・ムーア)は、今季の獲得賞金はわずか2500ドル(約27万円)だが、生涯獲得賞金は47万3500ドル(約5100万円)ある。
その大きな要因は、ウィンブルドン本戦に主催者推薦(ワイルドカード)で出場できていたことで、2016年大会は1回戦を突破して6万2000ドル(約670万円)を稼いだ。

27歳のムーアは「生死のようにテニスよりも大事なことがあるのは確かだけど、小国の選手の多くは収入がゼロになり、それでいて『自営業』だから福利厚生は受けられない」
「多くの選手は、これから数か月を生き延びるのが難しい」と話し、シャパタワの訴えに同調する。

最高でダブルス世界15位を記録したアラ・クドリャフツェワ(ロシア)も、飢饉のような現状に同情する。
2008年のウィンブルドンでマリア・シャラポワ氏を破り、脚光を浴びたクドリャフツェワは、ダブルスを主戦場に300万ドル(約3億2500万円)の賞金を稼いできた。

「私は貯金があるから心配していないけど、テニスを仕事にしようと思ってプロに転向中の若手はどうするの?
お金を貯める余裕なんてなく、自分への投資を続けてきた選手は? そのお金は奨学金とは訳が違う」
https://www.afpbb.com/articles/-/3277367