日本のテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」の展覧会が十七日、スイス国立博物館(チューリヒ)で始まる。欧州をはじめ世界中で愛される名作だが、原作の舞台となったスイスではなぜか放映されたことがなく、公式に紹介されるのは初めて。 (谷口大河)

 「ハイジ」は、NHK連続テレビ小説「なつぞら」でも描かれるアニメーションの勃興期に、宮崎駿さん(78)ら、後にスタジオジブリで活躍するクリエーターらが制作。日本のアニメでは初めて海外で本格的なロケハンを行い、物語の舞台であるスイスの雄大な自然や欧州の食文化を描いた。

 展覧会は長年「ハイジ」に関心を持ち続けてきたチューリヒ大のハンス・ビャーネ・トムセン教授(62)らが企画した。アニメは、スペイン、ドイツ、イタリアなど欧州各国で放映され、人気を博した。自国のオリジナル作品だと思い込む人も多いという。

 スイスでもキャラクターは知られ、外国人観光客を呼び込むイメージとして人気がある。だが作中で強調される牧歌的な風景や、文明的なドイツとの対比が敬遠されたのか、これまでスイスの放送局が放映したことはない。

 トムセン教授は約三十年前から、多くの外国人が「ハイジ」というフィルターを通じてスイスに触れていることに着目。数年前から研究者や当時の制作陣と展示会の企画に取り組んできた。「スイス人こそが『ハイジ』を知るべきだと思う」と説明する。

 「Heidi(ハイジ) in(イン) Japan(ジャパン)」と題し、セル画、ロケハンの写真、場面の設計図や関連グッズなど約二百点を並べる。アニメ「ハイジ」のコレクターでスタジオジブリ出版部の額田久徳編集長(56)は「日本アニメの魅力が凝縮された傑作。日々の生活を丁寧に描いた仕事は、今でも色あせない」と話す。

 十月十三日までの会期中には、研究者や当時の制作陣らが意見交換する国際会議も予定。三重大の大喜祐太講師(ドイツ語学)らが参加する。

◆日本発45周年「知ってもらえたら」

 「ハイジ」は、制作陣に才能あるクリエーターが集い、日本のテレビアニメの礎を築いた作品といわれる。宮崎駿さんがレイアウト(画面構成)、故高畑勲さんが演出(実質の監督)を手がけた。

 展覧会のポスターは「ハイジ」のキャラクターデザイン・作画監督を務めた小田部羊一さん(82)が描き下ろした。小田部さんは「なつぞら」ヒロインのモデルとされる故奥山玲子さんの夫。「現地を取材してきちんとつくったかいがある。多くの方に、東洋の日本人がつくったことを知ってもらえたら」と期待を寄せる。プロデューサーの中島順三さん(80)は「海外に出た日本アニメとしては初期の作品。放映からほぼ半世紀がたった今も、忘れずに紹介してくれることがうれしい」と話した。

 「ハイジ」は一九七四年の初放映から今年で四十五周年を迎えた。NHKEテレで取り上げられるなど国内でも再注目されている。

<アルプスの少女ハイジ> 原作の著者は、スイスの児童文学作家ヨハンナ・シュピーリ。アルムの山で暮らす活発な少女ハイジを主人公に、祖父のアルムおんじや友人のクララとの交流を描く。テレビアニメは全52話、制作はズイヨー映像。


2019年7月8日 夕刊
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小田部羊一さんが描き下ろした「Heidi in Japan」のポスター=スイス国立博物館提供