湯船から見た富士に憧れた女性が目指す場所
 83歳銭湯絵師の手さばき見つめ 「継ぐということ」(4) 

2018/11/1 11:1011/1 17:02 c一般社団法人共同通信社

 昔ながらの銭湯が減り、壁に描かれた大きな富士山は貴重になった。専門の「銭湯絵師」は、日本に3人しかいない。寂しさを感じていた現役最年長の丸山清人さん(83)に、初めての弟子ができた。
東京芸大大学院に通う、勝海麻衣さん(24)。絵師になると決めて美大で学び、目指すは銭湯絵も描くアーティスト。師匠の技を盗もうと、真っすぐな目が、その手さばきを追う。

◆80歳で個展

 丸山さんが銭湯絵師の世界に入ったのは、18歳のとき。親戚が働いていた銭湯専門の広告代理店に誘われ、就職した。風呂のない家が多かった当時、人目に触れる銭湯の壁は、貴重な広告スペース。壁の広告看板の上に、代理店がサービスで絵を描いていた。

 白や青、5色のペンキで描かれる銭湯絵は、どれも明るい色合いだ。「みんな、体を癒やしにやってくるからね。明るさを出すため、青主体が多い」と説明する。

(中略)

◆初弟子

 10月15日、東京都豊島区で半世紀以上続く銭湯「山の湯」で、はけや筆を片手に持った丸山さんが、壁に新たな絵を描いていた。

 「色に変化を付けていくグラデーションなんかが難しい」と言うものの、はしごや木の板で組んだ足場の上に乗り、色の濃淡で事もなげに尾根や山肌を表現していく。

 男湯の立山連峰は、写真からイメージを得て描いたが、女湯の富士山は、何も見ずにペンキの色を重ねていく。「もう何回も描いてきたからね」と、笑う。

 その手の動きをじっと見つめていたのが、昨年9月に弟子入りした勝海さんだ。小学2年の頃、銭湯で見たダイナミックな富士山に心を奪われ「私も将来、こんな絵が描きたい」と願った。

 中学校で銭湯絵師の存在を知り、目指す道を決めた。高校1年から美術予備校へ。周囲は就職を決める中、生活していけるかどうか不安はあった。が、「人生一度きり」と、ぶれずに武蔵野美術大で学んだ後、丸山さんに師事しながら、東京芸大大学院で「生活に寄り添う絵画」を研究する。

 大学では、ファッションデザイナーを目指す友人のショーに出演したことをきっかけに、モデルの仕事も始めた。「クリエーティブな人たちと一緒にいると、芸術への刺激になっていい」と、あくまで銭湯絵師の夢を追うことに貪欲だ。

 丸山さんは、勝海さんを「筋はいい」と評する。しかし本人は「まだ全然…。大学で基礎は学んだので、もう少しできると思ってました。でも、キャンバスと違って、これだけ大きな絵を足場の上で描くと、全体の構図を見失いがちになるんです」

 今は丸山さんが銭湯絵の世界に飛び込んだ頃のように、空や陸地の下絵を任される。この日は、丸山さんから「いいじゃん」と一度褒められた後、すぐに「あ、でも緑はもっと濃くして」と、ダメ出しを受けていた。

>>2以降につづく)


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銭湯で陸部分の下絵を塗る勝海さん
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現役最年長の銭湯絵師、丸山清人さん(右)と弟子の勝海麻衣さん=東京都大田区
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丸山さんの手先を見つめる勝海さん
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銭湯に描く、夢の富士山 U30のコンパス+
https://www.youtube.com/watch?v=CuMxUEFxaLw

https://this.kiji.is/429529621253162081?c=39546741839462401