ミュージックビデオの再生回数が伸びているから、今後人気がでる──。多くの人に見られ、賛同を得ているならこのニュースは真実だ。
しかし、その大元である再生回数は本当の数だろうか?

いまや広告業界をはじめ、音楽業界からメディア、さらには政府機関までもが“顧客”になっているユーチューブの「フェイク・ビュー」ビジネス。

米「ニューヨーク・タイムズ」紙が、徹底取材を重ね、売買記録を調査。
フェイク・ビューを販売するサイトの効果を検証するために、記者は大統領演説のクリップを使って13の動画を作成。
これらの動画を自分の名前と苗字の頭文字で新しいチャンネルにアップロードし、シェアも投稿もしなかった。

9つのサイトから再生回数を購入し、場合によってはさまざまな指定。30日ほどの間、毎日の再生を記録、モニタリングを続け、この闇ビジネスの裏側を暴いた。

マーティン・ヴァッシレフ(32)は、ユーチューブの再生回数を販売して、悠々自適な生活を送っている。
彼は今年だけですでに自身のウェブサイト「500Views.com」で1500万回分を売り、20万ドル(約2200万円)以上を稼いでいる。

彼のサイトは、卸売業者から動画の再生回数や「いいね」を購入し、顧客に提供する。
業者が注文を満たせない場合は、次の業者へとすぐに切り替える。ヴァッシレフはこう話す。

「再生回数は無限に提供できますよ」

「もう何年もブロックされそうになっていますが、回避することはできません。いくらだってやりようはありますからね」

グーグルを除けば、ユーチューブほど検索されているウェブサイトはない。2018年にピュー研究所がおこなった調査によれば、
ユーチューブは10代の若者のあいだで最も人気のプラットフォームであり、フェイスブックやインスタグラムにも勝る。

そして、ほかのソーシャルメディアと同様に、ユーチューブも「偽の視聴者」に何年ものあいだ苦しんできた。

ヴァッシレフも加担しているこの「フェイク・ビュー」のエコシステムは、ユーチューブの信頼性を損ねるものだと言えるだろう。
同社によれば、動画全体のなかでフェイク・ビューが占めている割合はわずかだが、それでも消費者や広告主を惑わせる力は充分にある。

再生回数の水増しは、ユーチューブの利用規約に反する。だが、グーグルで検索すれば、
「『早く』て『簡単』に動画の視聴数を500、5000、500万の単位で増やすことができる」というサイトは何百と現れる。

こうしたウェブサイトをテストするために、「ニューヨーク・タイムズ」の記者は数千の再生回数を9社から購入した。
その結果、報道機関と関係のない動画では、ほぼすべてが2週間以内に達成された。

調査の対象にした会社の1つは「Devumi.com」だ。

同社の記録によると、3年間で1億9600万回の再生回数を販売し、120万ドルを稼いでいる。
こうしたフェイク・ビューのほとんどは、現在も残ったままだ。

2016〜17年の記録を分析すると、ほぼすべての注文が数週間で達成されていたが、100万回を超えるときは期間が長期化した。
大量に、安く、そして早く再生回数を提供しているという事実は、このサービスが“本当の”視聴者を提供してない証拠だろう。
https://courrier.jp/news/archives/136387/