役者は、どこまで自分と異なる人間を演じることができるのか−。スカーレット・ヨハンソンがトランスジェンダー役を降板した騒動で感じた疑問だ。

1970年代の米ピッツバーグで風俗店と売春で帝国を築いた実在の犯罪王、ダンテ・テックス・ジル。女から男に性転換したトランスジェンダーのダンテを描いた新作「ラブ&タグ(原題)」で主役をヨハンソンが演じると発表された途端、LGBTQのコミュニティから「トランスジェンダーの俳優のチャンスを奪っている」と猛反発が起きた。

 映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」では日本女性の役を演じアジア系からバッシングを受け、「もう他人種の役は演じない」と後悔したはずだが、今回も同じルパート・サンダース監督作品でまたやってしまった感いっぱいのヨハンソン。

 早速、LGBTQ向けのOUT誌に「この役はトランスジェンダーの役者がやるべき」と降板を発表。彼女の発言に活動家も「わかってもらってうれしい」と評価。映画の宣伝効果もバッチリに見えたが…。

 過去に、ジャレッド・レトが「ダラス・バイヤーズクラブ」で、フェリシティ・ハフマンが「トランスアメリカ」で性同一障害者の難役を見事に演じオスカーなどの受賞やノミネートに輝いた。

 しかし、大多数の異性愛者であるCisgender(シスジェンダー、生まれた時の性別と自分の性同一性が一致する人)の俳優が、トランスジェンダー役で高く評価されたことに、LGBTQらは複雑な思いを抱いたようだ。

 一方、Netflixの人気コメディー・シリーズ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」では本物のトランスジェンダー俳優、ラバーン・コックスがトランスの俳優としては初めてエミー賞にノミネート。80年代のLGBTQを描いたFXの「Pose/ポーズ」は140人を超えるキャストとスタッフが同性愛者やトランスジェンダーらという革新的なシリーズだ。

 とはいえ、トランスジェンダーの俳優の役は通常、異端者などに限られ、役を得るのも難しい。話題性を期待しヨハンソンという大スターに大役が回ったことが、LGBTQらの神経を逆なでしたようだ。

 目下ダンテ役には、歌手のシェールの長女で男性に性転換した俳優、チャズ・ボノらの名が上がっているが、一方で製作中止の噂も。

 異性愛者が同性愛者を演じたり、その逆もよくある話で、自分と違った人間を演じることができるのが役者のはず。今回ヨハンソンに突きつけた厳しい苦言が、逆にトランスジェンダーの作品を減らすようなことにならなければいいが。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180724-00000002-ykf-ent