●時間足りず準備間に合わず。ではなぜハリルをクビに…

 西野朗監督には時間がなかった。あらゆる場面を想定したオプションを作るには、3つのテストマッチでは不十分だった。3バックは使えるシステムにはならず、守備力を高めるためのプランを練ることもできなかった。

 加えて、人選の吟味も十分にできなかった。監督就任からメンバー発表までにテストマッチはなし。大会前までにスタメンかサブかの「テスト」はできても、試合の流れに合わせて効果的な駒となり得るサブの見定めはできなかった。

 当然である。西野監督に与えられた準備期間はわずか2ヶ月。裏を返せばよくベストメンバーが見出だせたとも言える。奇跡的であり、かなりの大博打だった。

 仮にあと1・2試合テストマッチが増えていればどうだっただろうか。ここまでの綱渡りにはならなかったはずだ。ハリルホジッチ氏の解任は、昨年12月の日韓戦の大敗が決定打だったとも言われている。だったらなぜそのタイミングで監督交代に踏み切らなかったのか。

 そもそもなぜハリルホジッチ氏を切ったのか。前監督は3年にわたって戦術と人選を吟味していた。ハリルホジッチ氏だったら勝てたと言うつもりは毛頭ないが、試合展開に合わせたオプションを用意していただろうし、ベンチに使える駒がいないという悲惨な状況にはならなかったはずだ。

 西野監督は技術委員長時代、ハリルホジッチ氏について一定の評価をしていた。少なくとも私は取材を通じてそう感じていた。何人もが指摘していることではあるが、代表監督を評価する役目を担う技術委員会をあまりに軽視しているのではないか。

ハリル解任の余波は、未来にも続く。日本の強化策は4年遅れたと言ってもいい。

●ロシアで顕著だった戦術で打ち勝つサッカー

 以前からある傾向だったが、ロシアワールドカップでより色濃く出たものがある。それは、中堅以下の国が強豪国を戦術で苦しめ、勝ち点を奪っていったことだ。

 メキシコは世界王者ドイツを徹底的に分析して弱点をつき、勝利をあげた。イランやモロッコはスペインとポルトガルを最後まで苦しめ、スウェーデンの守備ブロックは簡単には崩れなかった。開催国ロシアも忘れてならない。スペインを破ったのは偶然ではない。計算されつくされた守備はスペインにすきを与えなかった。

 西野ジャパンのサッカーは戦術レベルが低いとは思わないが、相手の弱点をつくというよりも、属人的要素が強かった。香川や乾は高い戦術ビジョンを発揮したが、それはこの2人の能力によるところが大きい。

 今後、次世代の香川・乾を育てていくのは重要であることに間違いはないが、別軸でタレントの持つ才能に頼らないサッカーもできるようになるのが理想だ。

 ハリルホジッチ体制であれば、そこへの挑戦ができたはずだった。属人的でないサッカーができれば、タレントが小粒でも勝機を見出だせるだけでなく、今大会のように選手の質がともなえば、より大きな目標を狙っていけるのである。

 世界各国のレベル差が縮まり、戦術によってその差をひっくり返す。日本はその勝負から出遅れてしまった。あのベルギーでさえ、複数の戦い方を用意して、戦術によってブラジルを倒した事実から目を逸らしてはいけない。
 
 日本はカタールワールドカップに向けて戦術で打ち勝つサッカーを目指していくことになる。本来ならロシアで試行できたことだ。4年遅れの挑戦となる。

 西野ジャパンは結果を出した。「感動をありがとう」と思う人も多いだろう。ファンはそれでいい。しかし、日本サッカー協会が、その結果を持ってハリルホジッチ解任を正当化してはいけない。まずは、ハリルホジッチ氏の解任に至った自分たちの落ち度を反省し、適切な検証をすべきだ。今後ベスト8以上を望むなら、そこは避けて通れない。