金子達仁「史上2番目にひどい試合」に失望と喝采〈週刊朝日〉
7/4(水) 16:00配信 AERA dot.
https://dot.asahi.com/wa/2018070300049.html
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決勝トーナメント進出を決め、サポーターに挨拶するポーランド戦直後の日本代表(c)朝日新聞社
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◆スポーツライター・金子達仁、決勝トーナメントのベルギー戦の前に執筆した「日本チームのイメージ」について。

何とまあ、毀誉褒貶と浮き沈みの激しいチームであることか。

大会前の評判は最悪。それがコロンビア戦の勝利で肘の関節が外れるんじゃないか、と心配になるほどの勢いで世間は手の平を返し、関節の痛みが癒えるまもなく、1次リーグ最終戦の後にはファンを二分する大論争を巻き起こした。

確かに、ひどい試合ではあった。

いまから36年前、スペイン・ワールドカップの1次リーグ最終戦で、勝てば2次リーグ進出が決まる西ドイツと、負けても2点差以内ならば同じく2次リーグ進出が決まるオーストリアが対戦したことがあった。

前半10分に西ドイツが先制すると、そこで実質的に試合終了となってしまったこの一戦は、今なお『ワールドカップ史上最悪の試合』と呼ばれている。
2018年6月28日のボルゴグラードで日本とポーランドがやったのは、それを超えるほどではないものの、『ワールドカップ史上2番目にひどい試合』と評されても仕方のないものだった。

わたしはだから、大いに失望し、恥の意識を覚え、ちょっぴり誇りに感じ、そして密かに喝采した。

コロンビア戦の快挙と、セネガル戦の諦めない姿勢によって、日本サッカーに対する世界の好感度は、飛躍的にあがっていた印象がある。だが、あまりにも醜悪な最終戦の内容によって、そのかなりの部分には泥が塗られた。
ああいう戦い方をしておいて「これがルールなんだから仕方ないだろう」と開き直るふてぶてしさは、わたしにはない。

ただ、日本を決勝トーナメントに導いてくれたのは、イエローカードの少なさだった。日本人らしいクリーンな戦い方が、時として南米出身者から「何の役にも立たない」と揶揄されたこともあったフェアプレーの精神が、土壇場で自らを助けたのである。
この教訓は、今後の日本にとって素晴らしい財産となる。実に誇らしいことではないか。

そして何より、ああいう内容で、ああいう結果で決勝トーナメント進出を果たしたことで、選手は燃え尽きることなくベルギーとの一戦に臨むことができる。
02年のトルコ戦や10年のパラグアイ戦とは違い、目標を達成した脱け殻としてではなく、ここで結果を出さなければすべてが否定されかねない、という飢えた挑戦者として決勝トーナメントを戦うことになる。

(中略)

もし冴えない内容でベルギーに完敗するようなことがあれば、ポーランド戦での日本が最新にして最後の印象として、世界のサッカーファンの記憶に刻まれてしまうこともわかっている。

それでもよし、と考える日本選手は、たぶん、誰もいない。

(中略)

36年前、史上最悪の試合を演じたオーストリアは、続く2次リーグでいいところなく敗退し、悪名だけを背負って大会を去った。
だが、もう一方の当事者だった西ドイツは、準決勝でフランスと伝説的な死闘を演じ、負のイメージを拭い去った。

日本が進むのはオーストリアの道か。西ドイツの道か。

道は二つに一つである。

※週刊朝日 2018年7月13日号