サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で悲願の初出場をかなえたアイスランド。わずか約35万と、前橋市ほどの人口の島国が、欧州の列強と張り合い、ひのき舞台への切符をつかんだ。16日、初戦のアルゼンチン戦に臨む。躍進の背景を探ろうと、世界最北の首都レイキャビクを訪ねた。

 2年前、アイスランド国民の視線はフランスで起きている旋風に釘付けにあった。サッカーの欧州選手権に初出場したアイスランド代表は、イングランドなどを破ってベスト8入りする快進撃を見せたのだ。テレビ局を運営する通信会社シミンによると、イングランド戦の視聴率は99%をマークした。

 「欧州選手権での快進撃で国内のサッカー人気は爆発的なものになった。関心度という点ではね。だからといって、競技人口が一気に増えたなんてことはない。何しろ、そもそも35万人しかいないのだから」

 国立競技場内に事務所を構えるアイスランドサッカー協会で、アルナル・グンナルソン技術委員長は、そう言って笑った。

 欧州選手権での快進撃はフロックではなかった。16年秋から始まったW杯ロシア大会の欧州予選でクロアチア、トルコ、ウクライナなどの手ごわい国と同じグループながら、7勝2敗1分けの1位で初めてのW杯切符をつかんだ。

 なぜ代表チームは躍進を遂げたのか。単刀直入にグンナルソンさんに尋ねた。

 「一番大きいのは、黄金世代と呼ぶにふさわしい好選手が集まったことだ」。エバートン(イングランド)に所属する大黒柱、ギルフィ・シグルドソンらの現代表の中心選手は17歳以下、21歳以下代表時代から、欧州の強豪国と互角に渡り合ってきた経験を持つ。

■優雅さは必要ない

 さらに規律、精神力の強さにも触れた。「チーム随一のスーパースターであるギルフィが試合中、チームの中で一番走り回るわけだから、ほかの選手はさぼれない。バルセロナでメッシが一番走るようなものだ。華麗なテクニックを奏でる選手がいるわけではないから、アイスランドに優雅さは必要ないし、求めてもいけない」

 11年から6年間指揮を執ったスウェーデン出身のラーシュ・ラーゲルベック監督が意識改革で「勝者のメンタリティー」を注入。ボールの支配率に固執しない堅守速攻のスタイルが、選手の個性とうまくはまったのも大きい。

 「アイスランドのスポーツ〜なぜ小国が国際的な成功を成し遂げられたのか」の著書を持つアイスランド大のビーザ・ハルドルソン准教授(社会学)は長年、母国のチームスポーツを研究し、ある特性に気づいた。長年、「国技」として人気を博してきたハンドボールで、男子代表チームは08年北京五輪で銀メダルという快挙を達成した。身長、体重、国際試合の経験値などのデータからは明らかにライバル国より劣るアイスランドだが、突出していたものがあった。決勝までの全試合の合計で、得点などをチーム全員で喜び合った回数は299回で、対戦国の計135回の2倍以上に達した。

 「スーパースターがいなくても、仲間同士で補い合う結束力の強さは、この国が伝統的に持つ文化だと思う。それがチームスポーツのスタイルにも投影されている」とハルドルソン准教授は力説する。

 それはアイスランドサッカー協会のグンナルソン技術委員長の見方とも呼応する。

 「もちろん、代表チームの主力は全員、イングランド、ドイツ、イタリアなど外国で活躍するプロだけれど、まだ巨額の年俸のスーパースターではない。だから、謙虚だし、カネ目当てだけでない純粋な情熱がある。代表チームとして活動しないときも仲が良く、一緒に地元にいたら、映画に行ったりする」

朝日新聞6/16(土) 11:12
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