日大アメリカンフットボール部が関学大との定期戦で起こした悪質タックルの問題は一向に解決の出口が見えてこない。関東アメリカンフットボール連盟が「内田正人前監督、井上奨前コーチから当該守備選手への反則行為指示があった」と事実認定、除名などの処分を下したが、日大はやっと第三者委員会を立ち上げたばかりで、具体的な学内処分や再発防止策などを構築できていない。日大という大学そのものの経営構造に対する批判の声もやまない。

 実は、学生スポーツや子どものスポーツが盛んな米国でも、日大アメリカンフットボール部の悪質タックルと類似する問題は起きている。米国では、これらにどのように対応しているのだろうか。 

 いくつかの事例を紹介する。

 米国カリフォルニア州で、2012年に10歳と11歳児で編成されたアメリカンフットボールチームで、対戦相手を怪我させるようなタックルをすると、コーチから少額のお金がご褒美として与えられていたという事件が問題になったことがある。子どもが保護者に、その話をしたことで発覚し、地元紙などが報じた。
 その後、このチームが所属するポップ・ワーナーというユースフットボール組織が、弁護士らとともに調査。当時のオレンジ・カウンティ・レジスター紙の報道によると、とコーチらはご褒美プログラムを否定。調査を進めても、ご褒美プログラムの確固たる証拠はつかめなかったが、「少なくとも1人の子どもが少額を受け取った可能性がある」として、チームのコーチ陣に対し、ポップ・ワーナーリーグでの活動を1年間停止するという処分を下した。

 米国の大学スポーツの多くは、NCAA(全米大学体育協会)が管理や運営を行っている。学生がスポーツマンシップに反する行動や規則違反をしたときには、学生が籍を置いている大学か、または、その大学が加入するNCAAの各カンファレンス(リーグに相当)で責任を持つよう記している。学生が違反行為をしたときには、各大学か、その大学が参加しているNCAAの各カンファレンスのコミッショナーが対処する。

 これはアメフットではないが、サッカーの試合で、監督やコーチの指示ではなく、選手が試合中に勝手に暴力を振るったケースでは、次のように対応した。

 2009年にニューメキシコ大の女子サッカー選手が、相手選手の髪を引っ張って倒すなどの反則を繰り返した。この時は、ニューメキシコ大がスポーツマンシップに反する行為という学内規則に照らし合わせ、この選手に無期限出場停止処分を科した。ニューメキシコ大が参加しているカンファレンスのコミッショナーが、この処分を支持するとした。なお、この選手は後に処分が軽減され、翌年に選手として復帰している。

 アメフットでの乱闘などは、NCAA該当カンファレンスのコミッショナーが、出場停止処分を課しているケースもある。 各大学とNCAAの各カンファレンスのコミッショナーが連携して、処分を決めているのだ。

では、選手が監督やコーチから体罰や虐待的指導を受けているときには、どのようにしているのか。ここでも各大学に責任がある。チーム内での問題であり、大学が内部調査をする。
 しかし、米国でも、長年にわたって競技実績を残しているスターコーチや指導者に対しては調査が甘くなる傾向がある。 日本でも同じことだろう。

 イリノイ大学のアメリカンフットボール部では、ヘッドコーチが、怪我をしている選手に対し、適切な治療を受けさせず、無理に試合に出場させるよう圧力をかけていたことがあった。指示に従わないと、プロのスカウトに悪い評判を流すと脅したり、競技優秀者に与えられる奨学金を打ち切ることをほのめかしたりした。権力を濫用し、学生選手を精神的にコントロールしようとするコーチは、日大のアメリカンフットボール部だけではなく、米国にもいるのだ。

 一人の選手が、アメリカンフットボール部を退部後に、内部告発をしたが、大学内部の調査は当初はコーチ寄りだった。しかし、過去に別の大学でこのコーチに指導を受けた選手らが実名で「同じようなことがあった」とツイッターを通じて発言。そこで、NCAAがイリノイ大学に対し、独立した第三者機関の調査を受けるように求めた。各大学での調査方法に疑問があるときは、NCAAが大学に対し、適切に調査するよう求めたり、調査結果を提出するように求めることもある。最終的にはこのコーチは解任された。


>>2以降に続きます

2018.06.04 05:00
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