■「かっこいい」って何? 主観が基準? わかりにくいハーフパイプの採点

今大会のスノーボード競技を観戦していた人は、解説者の「かっこいい」や「スタイルがありますね」というフレーズを何度も耳にしたと思う。
「エアが高い」「着地がきれい」「スピードに乗っている」などはまぁわかる。
競技に取り組む選手たちを客観的に評価する指標になるのかなと初見の視聴者も了解できる。しかし、「かっこいい」「スタイルがある」はどうだろう? 
こうした客観的な指標と主観的な言葉が並ぶのが、スノーボードの難しさであり、醍醐味でもある。

「かっこいい」「スタイルがある」問題については、解説者の主観じゃないのか? という声は意外に多かったようで、
今回主にテレビ中継の解説を務めたソルトレイクシティ、トリノオリンピックのハーフパイプ日本代表、中井孝治さんが自身のブログでこうした
「スノーボード特有の言葉」についての解説をしている。
「スタイル、スタイリッシュ」について中井さんは、「オリジナル」という言葉を使って説明している。
 
  グラブや技をしている時の身体の形などのことを言っているのですが、パッと見ただけで誰だかわかるような個性的な動きをしている時、
その人のこだわりが伝わってくるような動きをしている時によく使ったりします。形だけを作るのなら、ある程度上手になればそのスタイルをマネできると思います。

中井孝治氏 オフィシャルブログ引用
 
要はフィーリングなんじゃないかというツッコミも見られるが、スノーボードはカルチャーの中から生まれた競技だ。
滑り方、飛び方、トリックの仕方は多くのライダーたちが「かっこいい」を追究することでどんどん進化していった。
オリンピック競技としてルールが整備されたいまもその前提は変わらない。

「本当のスタイルとは作るものではなくて、滲み出るものだと思っています」「だからこの形がかっこいいとか特に決まってないんです」

中井さんのメッセージを併せて読むと、スノーボードの「かっこよさ」の正体が少しご理解いただけるはずだ。

■オリンピック競技に求められているのは「客観的公平性」のはずだが……

一方で、オリンピックは長い歴史の中で、こうした「ルールの曖昧さを排除していく」という姿勢を見せてきた。
東京2020に向けて、レスリングの存続問題が勃発した際も「部外者にとって退屈で分かりにくく見える」という国際オリンピック委員会(IOC)の意向に応え、
国際レスリング連盟(UWW)が大幅なルール改変を行った例もある。

同じフリースタイル系の競技であるスキーのモーグルは、エアの難度や完成度、ターンの正確性などの他に、滑走タイムという明確な基準も加味されている。
日本人にはお馴染みのフィギュアスケートも、2002年のソルトレークシティオリンピックでの不正判定スキャンダルから採点システムを一新。
現在では技に応じた基礎点に出来映え点(GOE)が加わるなど、より客観的で公平な判定を担保している。最近では、技術点がリアルタイム表示されるようになり、
視聴者への公平性も格段に進化している。

今回の平昌オリンピックで、15歳のアリーナ・ザギトワ(ロシアから個人資格で参加)が、
基礎点が1.1倍になる後半にジャンプを集中させ金メダルを獲得したことを受けて、
国際スケート連盟(ISU)が後半のジャンプの数を制限するルール改正に動いているというニュースも聞こえてきた。

各競技がIOCの意向に沿って“客観的な公正さ”を積極的に導入している現状があるのに、スノーボード・ハーフパイプは治外法権的な扱いを受けている。
今回の平野、ショーンの争いでも、他競技の元アスリートが採点基準に異を唱える場面が目立ったのは、
各競技が「フェアな決着方法」を追究していることと無関係ではないだろう。