2018.2.7 20:14

 【平昌=時吉達也】平昌五輪の開会式は9日、3万5千人の観客を迎えて行われる。「歴代もっとも寒い五輪」(米タイム誌)との観測も出る中、2万人超を動員して行われた模擬開会式では直前まで観客が会場に入れないなどのトラブルも頻発した。体感温度が氷点下20度を下回る極寒に、観客は耐えられるのか。本番と同時刻の客席に座り、最終調整が続く舞台の様子を約1時間眺めてみた。

■肌を刺す「刃風」

 午後8時、平昌五輪スタジアム。会場の最上段に設置された出場各国の旗が音を立ててはためく先に、風力発電用の風車が回転するのがみえる。強風が吹くことで有名なこの地域では気温に比べ、体感温度が大きく下がる。韓国気象庁のホームページで確認すると、それぞれ氷点下14・2度、同22・8度を記録していた。

 ももひき越しの膝を襲う刺すような強風は、韓国語の「刃風」という表現がぴったりだ。つま先に差し入れた使い捨てカイロから、熱は一切伝わってこない。

 はたして開会式当日、記事を作成することはできるのか。意を決して手袋を外し、ノートパソコンを取り出した。起動を待つ2分の間に、早くも指先の感覚がなくなっていく。試しに好きなアイドルソングの歌詞を打ち込んでみた。

 5分後が経過すると、凍傷になったのか鈍い痛みがみるみる両手に広がっていった。12字詰でわずか20行。1番のサビが終わったところで限界を迎え、たまらず画面を閉じた。

 「負けないよ どんなにすごい風や砂にまかれても」。いつもは勇気づけられる歌詞だが、この強風にはとても勝てる気がしなかった。

 さらに痛みで動揺したのか、この原稿を誤って会社に送稿するというこれまでの記者生活で最も恥ずかしいミスまで犯すおまけがつく。午後9時、すごすごと会場を退散した。

 24時間以上が経過した記事作成時点の現在も、右手小指の指先の感覚は戻っていない。

■リハは保安検査も省略

 3日に近隣住民やボランティアスタッフの家族ら約2万人を観客として招く形式で行われた模擬開会式では、同様の寒さの中、アクシデントが相次いだ。

 保安検査場の大混雑で、開会の30分前になっても入場を済ませたのは数百人のみ。開始10分前には保安検査に加え、チケット確認も省略して観客を会場に押し込んだ。午後10時過ぎの式典終了後、観客の一人は「寒さしか記憶に残っていない」と体を震わせた。

 韓国紙、中央日報は、比較的暖かい昼間の式典開催が見送られた理由について「時差の影響で、巨額の放送権料を支払う米放送局NBCの要求を受け入れたためだ」と指摘する。

 韓国気象庁によると、開会式当日の会場周辺の予想気温は最高0度、最低が氷点下11度。観客は式典の2時間と前後の数時間、屋外で我慢を強いられる。式典は無事に終了するのか、予断を許さない。

http://www.sankei.com/world/news/180207/wor1802070024-n1.html