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■テレ朝ドラマの“定番商品”戦略

 真っ先に挙げられる理由は、作品のコンセプトとプロット(あらすじ)。もともと続編を視野に入れたコンセプトとプロットでなければ、「無理して作ることになってしまう」「頑張っても第2弾はトーンダウンするリスクが高い」という懸念を抱えることになります。

 特に社会現象になるような大ヒットドラマは、「ワンクール(3カ月間)ですべて出し尽くす」というスタンスで脚本・演出を凝縮。起承転結の“結”までをしっかり描き切るため、スタッフもキャストも「これ以上のものは作れない」と感じるものです。

 これはドラマの話に限りません。大ヒットするような新商品は、企画、マーケティング、研究、開発、検証などを重ね、「これ以上のものは作れない」という、いわば“自社ベスト”。すぐに「それを上回る派生商品やシリーズ商品を作れ」と言われても、簡単にはいかないのと同じなのです。

 ただ、もともと続編を視野に入れたコンセプトとプロットのドラマなら、何の問題もありません。なかでも、テレビ朝日が手掛ける刑事・医療ドラマは、企画の段階からシリーズ化を目指す“定番商品”狙い。「相棒」「科捜研の女」「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」などの長期シリーズは、少しずつ味を変えて定番商品を売り続けるスナック菓子と似たビジネススタイルなのです。

 もともとテレビ朝日は、「シリーズ化できるドラマを作って長期放送する」という手堅いコンセプト。上記3作以外にも「遺留捜査」「刑事7人」など、プライムタイム(19〜23時)で放送するほとんどのドラマをシリーズ化しています。

だから、「逃げ恥」「半沢直樹」のような社会現象を起こすドラマこそないものの、「気づいたらまた見ていた」という状況を作り出せるのでしょう。これをビジネスシーンに置き換えると、「定番商品を手堅く売り続ける」テレビ朝日と、「新たな大ヒット商品を模索し続ける」民放他局という図式になります。

■「○○の人」というイメージの呪縛

 次に挙げたいのは、キャスト側の事情。続編制作に向けた最初のハードルはキャスティングであり、ドラマプロデューサーたちは、まず主要キャストの意向を確認することになります。

 そこで問題となるのは、彼らのイメージとモチベーション。「3年B組金八先生」(TBS系)の武田鉄矢さん、「踊る大捜査線」(フジテレビ系)の織田裕二さん、「家なき子」(日本テレビ系)の安達祐実さんなど、「社会現象を起こした大ヒット作ほど、役柄のイメージがついてしまい、他の出演作にも影響を及ぼす」という懸念があるのです。

 どんなに演技力がある俳優でも、見るのが視聴者であることは変わりません。演じる前から「〇〇の人」という特定の強いイメージを持たれてしまうと、ほかの役柄を演じにくくなるため、大ヒット作ほど、「役への愛着はあるけど、再び演じたくない」という俳優が多いのです。

 また、私が取材するかぎり、「一度、自分を追い込んでやり切った役を再び演じるのは難しい」と感じる俳優は少なくありません。役作りに励み、撮影現場で追い込み、力を出し尽くした役に再び挑むためには、視聴者の想像を超えるモチベーションが必要。「過去の自分と戦うよりも、新たな役に向き合いたい」と考える俳優が多数派です。

 実際、現在続編が放送中の「コウノドリ」(TBS系)で主演を務める綾野剛さんは、「ずっと僕の中で『コウノドリ』は生き続けたまま今まで来ています」「しっかりプレッシャーを与えて、自分自身を追い込んでやらなくてはいけない」と語っていました。画面を通して見ても、インタビューされていても、悲壮感を漂わせるほどの挑戦なのです。