ネットに強いテレビ局はどこか。テレビマンたちに聞くと、放送技術研究所を持ち潤沢な予算がある「NHKは別格として」という前置きをしたあとに「民放では、フジテレビかなあ」という答えが返ってくる。ネットで得た情報をそのまま放送して、たびたび謝罪を繰り返しているテレビ局が、強いはずがないと思うかもしれない。しかしそれは、他局よりもネットで流れる情報に敏感であるが故に起きていることなのだ。

「民放のなかでは、もっともはやく、ネットから情報を得るための専門部署を立ち上げたのがフジテレビでした。そこでは24時間、交代制で情報を得て、番組制作やニュースに生かしている。批判も多いけれど、事件や事故の関連情報を掴むのが早いし、オリジナリティが強いネタを放送に結びつけています。うちでも体制を整えつつあるけれど、早くから取り組んでいるフジに一日の長があるなと感じています」(民放報道記者)

 フジテレビが他局に先んじてネットに強いのは、ニュースなどの情報を取り扱うことだけではない。たとえば、フジテレビが運営するニュースサイト「ホウドウキョク」では昨年、VR動画を公開、FOD(フジテレビオンデマンド)でもスマホでのタテ視聴にあわせたタテ動画のドラマを制作した。FODが公開したVR番組を視聴した民放キー局のディレクターは、興奮気味に話す。

「VRいいですね。うちでも何かつくりたいです。『360度 まる見え!VRアイドル水泳大会』を見たのですが、他では味わえない体験です。VRというとホラーやスリルを味わう映像ばかりが取り上げられることが多いですが、もっと穏やかな夢の世界の実現にもむいていると思いました。いま、VRアトラクションは15歳以上限定のものですけれど、いつか子ども向けのコンテンツをつくりたいですね」

 残念なことに、テレビの可能性を広げる意欲的な映像を次々と公開しているフジテレビだが、新技術に関心が高い人以外にはあまり伝わっていないのが実情だ。

 たとえば、フジテレビのオリジナル動画を公開しているYouTubeチャンネル「フジテレビアラカルト」では、映画『帝一の國』の「360度VR動画 フンドシ太鼓編」を公開、再生回数30万回を超えている。ところが、若い女性たちが映画館に詰めかけているこの作品の特典映像を、「どうやって見ればよいのかわからなかった」と残念そうに話すファンが少なくない。VRゴーグルがなくても、スマホかタブレットのアプリで全画面表示にすれば映像が360度で展開される疑似体験ができるのだが、視聴方法の説明がどこにもないからだ。

「担当者が技術に詳しい人なので、基本的な説明の必要性をあまり感じないせいもありますが、評判にはなりたいけれど目立ちすぎるのは避けたい心理も働いているのではないでしょうか。フジテレビはネットではいつも悪役としてとらえられることが多いので、これ以上嫌われないように慎重に行動し、地味でもチャレンジは続けていこうという姿勢です」(フジテレビ関係者)

 視聴率や業績など、暗い話題が続くフジテレビだが、密かにネットとの親和性を高め、実力を蓄えていくことで、大きく巻き返せる日が来るのかもしれない。

2017.06.25 07:00
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