米国が参加していた頃のTPP交渉でも、ライトトラックの関税はTPP発効後29年間、25%を維持して、30年後に撤廃することで合意した。30年はTPPの関税撤廃で
認められる最長の期間だ。EV(電気自動車)などの台頭で激動の自動車産業は30年後には様変わりで、そんな先の関税撤廃を約束してもほとんど無意味だ。

 冒頭で紹介したトランプ大統領の発言のように、日本に対しては、検査などの非関税の障壁があって日本市場は閉鎖的だと問題にする米国のセリフは、20年前と
ほぼ同じだ。その都度米国の誤解を解くべく丁寧に説明し続けてきたのは当然だ。

 そのうえで、できるだけの優遇措置を米国車に講じることもしてきたが、それにもかかわらず、日本市場で販売シェアを伸ばすのはドイツ車を中心とする欧州メーカーだ。
欧州メーカーは1995年の2.6%から2017年には5.6%まで伸びた。

 他方、米国車は1.4%から逆に0.2%まで低下したのだ。とうとうビッグスリーも諦めて日本市場から既に撤退したり、撤退モードであったりする。要するにこれは販売努力の差だ。

 米国メーカーは儲けている米国市場を守ることに必死だ。したがって自動車分野はむしろ日本が米国に対して要求する「攻める」分野だ。米国は日本からの関税引き下げ要求を
かわすために、日本市場の閉鎖性をわざと言い続けているという本質を見抜かなければならない。

 米国の主張を額面通りに受け取って、あたかも日本市場の問題が焦点になるという報道ばかり目立つが、これでは米国の思うつぼだ。今後も、そういう日本のメディアの悪い癖
である「自虐的な報道」には注意したい。



 以上、細川昌彦氏の近刊『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』(光文社新書)をもとに再構成しました。鉄鋼摩擦、自動車摩擦などを経験し、
元日米交渉担当者を務めた「貿易のプロ」による緊急提言です。