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    /::::::´:〉- 二  `/::::::::::::::/::::::::::::::ヽ、    1788ダンツィヒ〜1860フランクフルト
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こういうときに愛する女にたいする憎悪が燃えたつと、相手を殺しそのあとで自分も死ぬということに
ときとしてはなりかねない。この種の例がいくつかは毎年起こるのがつねで、イギリスやフランスの新
聞でよく見ることである。だからゲーテの言っているのはまったくそのとおりである。

  ひじ鉄砲はおろか、地獄の火もこれよりましだ。
  ええ、なんとも腹の虫が納まらぬ。

恋をしている男が恋人の冷淡さと、彼の苦悩を見て虚栄心を満足させて喜ぶのを残酷というのは、じっ
さい誇張ではない。というのは、彼は、昆虫の本能のように、理性の説くあらゆる道理に逆らって自分
の目的を是が非でも追求し、その他のいっさいのものを無視するように強制する衝動の影響に支配され
ており、彼はこの影響から逃れることができないからである。満たされぬ焦心の思いを、鎖や鉄塊を足
かせにひきずるように、生涯抱きつづけねばならず、人知れぬ森のなかで嘆息をもらした者は、ひとり
ペトラルカだけではなく、世に数多かったのである。しかし同時に詩才に恵まれてたのはひとりペト
ラルカのみであって、ゲーテの美しい次の詩句は彼にこそふさわしい。

  人が悩みのあまり黙すとき、
  神はわたしに、悩みを語るすべを授けた給うた。

 じっさい、種族の霊はいたるところで個人の守護神と戦いをまじえ、その迫害者であり敵であって、
おのれの目的を貫徹するためには、ついでも個人の幸福を容赦なく破壊する覚悟をしている。いやそれ
どころか、国民全体の幸福がときとして種族の霊の犠牲にされたことさえある。シェークスピアはこの
種の例を、『ヘンリー六世』の第三部・第三幕・第二場および第三場でわれわれに提示している。これ
らすべては、種族がわれわれの本質の根底であり、個体よりもいっそう直接に、いっそう以前にわれわ
れにたいして権利をもっているということにもとづくのであって、またそれだからこそ種族の仕事が優
先するのである。古代の人びともこのことを感じており、そのため彼らが種族の霊をを擬人化したキュー
ピッドは、見た眼にはあどけないが、そのくせ敵対的で残酷な、そのため人にきらわれる神であり、ま
た気のむらな、専制的なダイモーンであるが、それでも神々と人間の支配者なのである。

  神々と人間の暴君たるなんじ、エロスよ

人を殺める弓矢、盲目と翼が彼の属性である。翼は無常を暗示しており、これは通常、満たされたあと
に起こる幻滅とともにはじめて現われる。