■「移住は今後も進む」
特区民泊の経営者として経営・管理ビザで移住する流れのイメージ
松村教授によると、中国系民泊を運営する法人の登記簿では、法人設立当初は中国に住んでいた代表の中国人が、特区民泊の認定を受ける前後に日本に移住するケースが多数確認された。法人の資本金は、多くが経営・管理ビザの取得要件と同じ500万円だった。
ビザを取得するために民泊の運営法人を設立し、移住する――。松村教授は「こうした方法が中国人の間で広まり、国内にも支援する業者がいるのだろう」と推測する。
中国のSNSには、民泊以外にも、 「日本語ができなくても問題ない」などとして、 貿易業やECサイト運営などが紹介されている。
2023年6月に大阪に移住した許健さん(50)(男性、仮名)も経営・管理ビザで、中国人に日本の不動産会社などを紹介するコンサルタント業をしている。
移住したのは、中国の「ゼロコロナ政策」への疑問からだ。世界で初めて新型コロナウイルスの感染が広がった湖北省武漢で2011年から書店を営んでいたが、約2か月半の厳しいロックダウン(都市封鎖)で、営業停止を余儀なくされた。
故郷の上海も2022年に都市封鎖され、移住を決意。日本に住む中国人の友人に相談し、行政書士に手続きを依頼すると、申請から3か月ほどで経営・管理ビザが下りたという。
許さんは「中国は経済状況も悪化している。移住は今後さらに進むだろう」と話した。
■日本のビザは「安すぎる」
在留外国人統計によると、日本で暮らす中国人は2024年6月末時点で84万4187人で、過去10年間で約20万人増えている。
特に経営・管理ビザで滞在する中国人は急増し、2024年 6月末時点で2万551人で、同ビザが設けられた2015年の2・8倍に増えた。
移住する中国人が増える背景には、ゼロコロナ政策への反発や経済状況の悪化に伴う将来不安がある。
中国では海外移住を意味する「潤(ルン)」という隠語も広がっている。発音表記が英語「run」と同じことから「逃げる」の意味で使われているという。
日本が人気を集める理由には、生活環境や中国からの近さがあるが、条件面もある。
海外移住コンサルティング会社「アエルワールド」(東京)の大森健史社長(50)は経営・管理ビザの要件「資本金500万円」について「格安だ」と言う。
大森氏によると、米国の同様のビザ(投資駐在員ビザ)を取得するには、20万~30万ドル(約3000万~4500万円)程度の投資が必要とされ、永住するには最低80万ドル(約1億2000万円)以上の投資が求められるという。
2022年に上海から経営・管理ビザで来日した王紅運さん(40歳代、男性、仮名)は、大阪市内にタワーマンションなど複数の不動産を持つ富裕層だ。「500万円で移住できる日本は安すぎる」と言い切った。
松村教授は「経営・管理ビザは、日本で事業を行う外国人のための在留資格だが、移住のために安易に使われているのではないか。今後も移住する中国人が増えるとみられ、日本社会とのあつれきをうむ可能性もある。民泊を含め、事業の実態があるのかしっかりとチェックすることが必要だ」と指摘している。