■ドイツ国民は敗者となるのか
3月18日、旧議会が招集された。午前中から、各党の代表議員による激しい論争が数時間も繰り広げられたが、結局、513票対207票で、史上最高の債務パッケージは可決。なお、21日には連邦参議院(各州の代表が集まっている議会)でも採決が行われるが、メルツ氏はここでの反対を抑えるため、1000億ユーロを州に提供するとしており、スムーズな可決が予想される。自分の首相就任のため、あっちもこっちもお金で釣っている。
メルツ氏は、これで首相の座に一歩近づいたと思っているようだが、新議会での党首選の行方はまだわからない。緑の党の共同党首ハッセルマン氏は、メルツ氏が財政拡張の必要性を知りながら、選挙運動中ずっと有権者を“欺い”ていたと激しく非難。また、AfD、自民党、BSWによるメルツ、および、彼の財政拡張批判も当然、激しい。
そればかりかCDUの党内部でも、メルツ氏への反発はかなり高くなっており、反逆者が出る可能性も、今や否定できない。メルツ氏はいまだに、安全保障の緊急性を挙げているが、説得力には欠ける。
■結局、前政権の顔ぶれが復活するだけ?
このままでは、今後、果たして社民党が、メルツ氏の思惑通り、あっさりと連立を組んでくれるかどうかもわからなくなってしまった。ひょっとすると、緑の党と左派党と共に、左派の少数政権を立てようとするかもしれない。一方、CDUはというと、自分で築いた「防火壁」に阻まれて、連立相手がいない。社民党はどちらに転んでも与党になれる。
「防火壁」で作戦を間違ったCDUは、その後の公約破りで信用を失い、今では手詰まり感が激しい。
では、ドイツ国民は? これほどたくさん不誠実なイメージがくっついてしまった人物を、今でも自分たちの首相にしたいと思っているのだろうか。CDUはこのままでは、おそらく嵐の中をフラフラと左の方向に流されていく。ドイツでは近年より、計画経済、言論統制がすでに静かに進み始めているが、次に来るのは、大規模な軍拡、徴兵制の復活、国家権力の増大と自由経済の失速となるのか? 総選挙の結果がこんなところに向かうかもしれないなどと、いったい誰が想像したことだろう。
■「投票率82.5%」がなぜ日本でもできないのか
おりしも日本の政治も、選挙が終わってまだ間もないというのに、すでにボロボロだ。ドイツも日本も、既存の政党はどれもこれも、戦後70年間、築いてきた利権構造から抜け出せないし、おそらく抜け出したくもない。ドイツではAfDが出現して、その不都合な現実がにわかに可視化したため、政治が荒れている。トランプ大統領が、米国を足元から改革しようとしている動きと似ているかもしれない。
一方、日本ではまだ方向が定まらず、混沌だけが進んでいる。ただ、過去30年間の経済の停滞が、今後、はっきりと国民の貧困化に舵を切るなら、日本人も黙ってはいないのではないかと思う。
ドイツにせよ、日本にせよ、国民が敗者になることだけは絶対に起こってはいけない。ドイツの今回の選挙の投票率は82.5%だった。日本人も政治を諦めず、民主主義の力を発揮し、国民主権を行使すれば、政治の改善は不可能ではないと思うのだが……。