「インターネット配信サービスが放映権を持っていることが大きいでしょう」と語るのは、スポーツライターの生島淳さんだ。
 今回の全64試合は、インターネットテレビ局のABEMAが生中継する。ドイツ戦も視聴者数が1000万を超え、過去最高に。
生島さんは「地上波は3局しか中継しておらず、事前報道も少なかった。
ただ、ドイツ戦に勝ったことで情報番組でもにわかに扱い始め、急にW杯一色に染まったように映ったのではないか」と話す。

 都市生活の調査分析をする公益財団法人「ハイライフ研究所」の藤原豊・専務理事は、
コロナ禍や国際競争力低下などの閉塞へいそく感があったとみる。
「突然降ってわいた明るいニュースに、多くの人が好感をもった。監督の大胆な采配などのストーリー性も受け入れやすく意外性があった」

 ちなみに、ドイツからはどう見えたのか。ドイツの専門紙「キッカー」特派員の安藤正純さん(69)は
「ドイツが前半リードして負けたのは44年ぶり。負けたという事実より珍事として受け止められている」と率直だ。
一方、「監督が悪かったなど負けた理由探しは起きていない」とも。

 その理由について「サッカー文化が真にドイツ社会に根付いているからだ。
ドイツでは週末にサッカーの試合が必ずあり、サッカーを触媒にして地域社会が成り立っている。
サッカーが日常の一部のドイツと、4年に1度の2週間だけ盛り上がる日本ではとらえ方が違う」とみる。

 にわかの盛り上がり。否定はしないが、日本社会の特性もあるのか。
千葉商科大の常見陽平准教授(労働社会学)は「周囲が盛り上がっていると、
その雰囲気に合わせようという日本特有の空気感はある」と指摘しつつ、投げかける。
「熱狂は怖さをはらむ。熱狂の裏で、五輪の談合疑惑の捜査が進むなど忘れてはならない問題もある。盛り上がっている時ほど冷静な視点も大切だ」