安倍元首相を襲った「言葉の暴力」


最期に見たのはどのような景色だったのだろうか。そんな思いを抱き、参院選投開票日前日の9日、
奈良市の近鉄大和西大寺駅の北口に降り立った。ほぼ24時間前に安倍晋三元首相が凶弾に
倒れた現場は、周囲に大勢の人がいるにもかかわらず、静寂に包まれた不思議な空間となっていた。

駅に着くと、改札内の生花店に長蛇の列ができていた。現場近くに設けられた献花台に向けては
さらに長い列があり、若い人や女性が目立った。小さい子を連れた家族の姿も多かった。

その足で京都市の繁華街に向かった。参院選最終日、立憲民主党の泉健太代表がマイクを握り、
安倍氏が議論の必要性を提唱した核共有(ニュークリア・シェアリング)の是非に関し、こう訴えた。

「仮に京都が核兵器を配備する地区になったら、日本で一番狙われるのがこの京都に
なるということだ。そんなのおかしいに決まっているじゃないか」

日本が複数の核保有国に囲まれていることには一切触れず、ましてや、その脅威からいかに
国民を守るかといった言及も全くなかった。街頭演説で分かりやすく語ったつもりなのだろうが、
粗雑な訴えで不安をあおる姿勢からは有権者を見下している印象も受けた。

これと似た言動は政治部記者だった平成27年9月、安倍政権時に成立した安全保障関連法の
取材でも目の当たりにした。

同年8月、国会前で「戦争法」と反対デモを行っていた大学教授が
「安倍は人間じゃない! たたっ斬ってやる!」と訴え、聴衆が歓喜していた。その教授が
中心の「市民連合」を結集軸として安保関連法反対、安倍政権批判を展開し、その後に
選挙協力も進めたのが立民の前身である民進党や、共産党だった。

銃器を使ったテロで民主主義を破壊する行為が許されないことは論をまたない。
一方で「言論の自由」に名を借り、相手への敬意のかけらもない「言葉の暴力」もまた、
無条件で許容されるはずもない。こうした人々の安倍氏を追悼する言葉が空虚に聞こえる。

https://www.sankei.com/article/20220712-PPZPFJVGK5MTRO2W2URKCZAWTM