中国の都市部では、高層ビルが林立し、高級ブランド品を身にまとう人も多い。その「繁栄」を支えるのは、対照的に貧しい農村部出身の出稼ぎ労働者たちだ。「農民工」と呼ばれる。

 中国最大の経済都市・上海市。廃品回収をしながらその日暮らしを続ける崔歩軍(ツイブージュン)さん(50)は26年前、江蘇省淮安市の農村から出稼ぎにやってきた。

 集めた廃品は、きらびやかな目抜き通りに面した40階建てオフィスビルの地下駐車場にあるゴミ置き場に集め、分別する。ゴミ置き場のドアを開けると、油や生ゴミの強烈なにおいが鼻を突いた。廃品やゴミが山積みとなる中に、休憩用の粗末ないすが置いてある。ここに座って食べる毎日の昼食は、ゴミ回収先の飲食店からもらう残り物だ。

 「1日働いてもスズメの涙ほどの収入しかない。でも、学もなく、年も年だ。もうどうしようもない」。崔さんは力なく話した。

 改革・開放政策で高速成長の礎を築いたトウ小平は建国の指導者・毛沢東の平等重視を転換し、一部の人や地域が先に豊かになる「先富論」を掲げた。その恩恵を受けた上海は高層ビルが立ち並ぶ大都市となった。

 中国が日本を抜いて世界第2位の経済大国となった2010年に開催された上海万博は、出稼ぎ14年目となっていた崔さんを「いずれは自分も少しは余裕のある暮らしができるようになる」と、勇気づけた。

 現実は残酷だった。富める者はますます富み、貧しき者は貧しいまま。「平等」という社会主義の理念からかけ離れた格差社会の存在を突きつけられるばかりだった。「上海人のために、自分は一生働き続けるのか」と、苦い思いが募る。