【台北=矢板明夫】ロシアによるウクライナ侵攻を受け、台湾で中国の軍事的脅威に対する警戒感が高まっている。そんな中、台湾のインターネットにウクライナ情勢に関するフェイク(偽)ニュースが大量にみられるようになった。その多くは中国発のもので、台湾当局は世論に働きかける「情報戦」「心理戦」の一環とみて、チェック体制を強化している。

「フェイクニュースは、(中国)人民解放軍の戦略支援部隊や関連部署に発したものが多いと確認されている」。台湾の情報機関「国家安全局」の陳明通局長は3月28日、立法院(国会に相当)でこう答弁し、「悪影響の拡大を阻止するよう努めている」と続けた。

中国発のフェイクニュースで最も影響が大きかったのは、ウクライナに在住する中国人の退避に関するものだった。

台湾とウクライナの間には外交関係がないため、現地の台湾人の国外退避が難航していたところ、「台湾ボーイ」と名乗り、ウクライナ在住と自称する若い男性が2月末にインターネットに動画をアップした。

「キーウ(キエフ)の中国大使館の通達を見て感動した。『台胞証』を持つ台湾人も中国のチャーター便に乗ることができる」とうれしそうに語り、「母なる祖国への永遠の愛を」と言って感極まった。

動画は台湾のネットで広く拡散したが、台胞証は台湾人が中国大陸を訪問する際に必要な中国政府発行の通行証であるため、「ウクライナに持っていく人はいないはずだ」と指摘された。「ウクライナ上空に民間機が飛んでいないのにチャーター便はおかしい」との声も寄せられた。

台湾当局が確認したところ、「台湾ボーイ」の父親は台湾人だが、本人は中国の広東省の在住。中国で台湾政策を主管する国務院(政府)台湾事務弁公室が育成したネットのインフルエンサーの一人だった。

他にも「ゼレンスキー・ウクライナ大統領は実はポーランドにいる」「台湾有事の際に米国は絶対に台湾を助けない」といった中国発の虚偽情報が毎日のように台湾のネットに流れている。

中国の情報戦を分析するシンクタンク「台湾民主実験室」の研究員、雨蒼氏は「これまでは台湾の選挙前に中国発のフェイクニュースが多かった。今回は戦争が起きるかもしれないという台湾人の不安心理につけこむ新しい情報戦のやり方だ」と分析している。

https://www.sankei.com/article/20220405-Z33CPOXPSFOMJMVV6O6CF444UA/