寄生虫と聞くと、ほとんどの人はぞっとするはずだ。自分から進んで寄生虫に体を差し出そうという人はまずいない。寄生虫を表す「parasite(パラサイト)」という英語の語源は、「並んで食べる」というギリシャ語だ。寄生虫と並んで食事をするのは、どう考えてもイケていない。

しかし、米ワシントン特別区にあるスミソニアン国立自然史博物館の進化生物学者ジミー・バーノット氏によれば、寄生は「大成功を収めた生命の形態」だ。その点で、寄生生物はもう少し尊重されてしかるべきかもしれない。

寄生という形態は、動物、植物、菌類、細菌、そしてウイルスまで、あらゆる生きものに行き渡っている。チスイコウモリや、小さなオスがメスと一体化して生殖するチョウチンアンコウなどはその多様な形態のいい例だ。

《ブルーティラピアの尾びれに寄生する扁形(へんけい)動物(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NATIONAL GEOGRAPHIC PHOTO ARK)》
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寄生は、2つの生物が密接に関係しながら生活する「共生」の一種だ。宿主を必ず殺してしまう捕食寄生者(擬寄生者)を除き、多くの寄生者は宿主に大きな問題をもたらさない。宿主を守る寄生者もいる。抗生物質から細菌を守るウイルスなどだ。これはペニシリンを使っている人にとっては問題だが、細菌にとっては吉報だ。

寄生生物は、さまざまな方法で宿主から栄養を得る。外部寄生者と呼ばれるタイプは、宿主の体表から血を飲んだり皮膚を食べたりする。一方、内部寄生者は宿主の体内で活動する。サナダムシやウマバエの幼虫などがその例だ。

世界にはどれくらいの種類の寄生生物がいるのか、はっきりしたことはわかっていない。しかし一部の専門家は、寄生しない生物よりもはるかに種数は多く、また、寄生生物の大半はまだ発見されていないのではないかと考えている。

寄生生物があらゆる生物に入り込んでいることを考えれば、寄生という戦略がじつに長く使われてきたことも納得できる。化石から明らかになっているもっとも古い寄生生物は、5億1500万年前に、二枚貝のような腕足動物から食べものを得ていたミミズのような蠕虫(ぜんちゅう)だ。

「食物網や生態系ネットワークを作ってみると、種のつながりの半分以上が寄生生物で成り立っていることもあります」と、シンガポール国立大学の寄生生物学者であるマッケンジー・クワック氏は述べる。

「つまり、生態系をまとめる接着剤の役割を果たしているのが、寄生生物なのです」

宿主を守るものも 迷惑者と言い切れない寄生生物たち
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2022/1/14 ナショナル ジオグラフィック 文 TROY FARAH 訳 鈴木和博