大正一〇年九月二九日大審院第二民事部判決(大正一〇年(オ)四五五号「貸金竝損害賠償」事件)判決(第一審[盛岡地裁(大正九年九月一三日判決)]

「前借の[金に関する]契約は、金二十円を目的とする純然たる消費貸借の意義なりや、将た名義は貸借契約なれども其の真意は芸妓稼業の実質を構成し、X女をして芸妓稼業を為さしむる対価として金二十円を授受し、X女に不当の所為あるときは損害賠償として同額の金円を支払はしむる意義なりや、原判決の文意上明瞭なりと云ふを得ず。若し其意前者なりとせばYは芸妓稼業契約の効力如何に関係なく消費貸借上の権利を主張して前借金の返還を請求することを得べしと雖も其意義後者なりとせば、少くとも芸妓稼業の当事者たるX女に対しては無効なりと云はざるべからず。之を要するに原判決は其の認定したる芸妓稼業契約(前借金に関する部分を除く)を以て有効なりと判示したる違法あるのみならず、前借金に関する約旨[束]に付きては意義不明にして結局理由不備の違法あり」


差戻審である大正一一年四月二二日の宮城控訴院判決(大正一〇年(ネ)第二九六号「貸金竝損害賠償請求」事件)

甲第一号証の文詞就中「金二十円を契約に基き借用候処実正也若し契約年限中途にして変更候節は相当の利子を加へ返済可申事」なる文詞に徴すれば右借用金二十円は年期中前顕の如き不都合の所為なき場合には之が返還義務を消滅せしめ不都合の所為ありたる場合には之に利息を付し返還する約旨にして該貸借はヨシエの芸妓稼業を目的と為すものなること明かなれば本件芸妓稼業契約の内容を為し之と不可分の関係に在るものと認むべきを以て該貸借の部分のみ独り有効たるべき筋合なきにより被控訴人の右主張は之を採らず然らば則ち本件甲第一号証の芸妓稼業契約の債務に付控訴人大吉と被控訴人間に成立したる連帯保証契約も亦其の基本たる芸妓稼業契約の無効なる結果当然無効なりとす


極めて明確に、前借金契約の無効を宣言している