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……ええ、我々が踏み込んだ時は数十匹のカッパ達が、薄暗い部屋で寿司を握っていたところでした。
皆一様に生気がなく、画面に表示される注文をロボットのようにこなしていくのです。

そんなカッパ達の鎖を外してやり、「もう大丈夫だよ、さあここから出よう」と声を掛けるものの、どのカッパもキョトンとするばかりで動こうとしませんでした。
それどころか、一向に入らない注文にパニック状態になっているカッパすらいました。

ふとカッパの皿に、バーコードと、小さな文字が刃物か何かで刻まれているのが目に止まりました。
そこに書かれていた文字は『generation 18 No.34』……つまり、18世代目の34番目の個体という意味でした。

彼らは何世代にもわたる交配の末、水かきと足は既に退化していて、寿司を握る事に特化した生き物になっていました。
クチバシはチューブを挿入されており、キュウリのヘタをきざんだものが胃ろうで流し込まれていました。排泄もまたチューブで行われているようでした。

彼らにはもう電気ショックも親兄弟といった担保も必要なかったのです。
名前も与えられず、そもそも「外の世界」を知らず、ひらすらに寿司を握りつづけ、壊れたら破棄される……そのような悍ましいシステムが完成している事は想像に難しくありませんでした。