司馬遼太郎『この国のかたち』は、どちらも二つ星だ。「『街道をゆく』が地理的な観察に根ざした随想なら、『この国のかたち』は歴史に取材した随想である」、「『……と聞いたことがある』など、伝聞の形で人に責任を押しつけながら断定的にモノをいうのが司馬の得意技なのだ」、「世界を支配するような思想も人物も生まなかった、小国としての幸運と誇り。小国であった日本の歴史を、彼はプラスにとらえるのだ。その瞬間、劣等感は優越感に変わる。名づけるならば『自尊史観』」。著者は、司馬の本質をよくとらえている。そして、司馬の死後、この自尊史観が最悪の形で歴史修正主義に利用されたと指摘する。「ネトウヨ(ネット右翼)」の源流である歴史修正主義者が司馬史観の後継者を標榜するようになったと。しかし、「学徒出陣で満州に送られた体験を持つ司馬は、先の戦争も当時の価値観も、徹底的に嫌悪し、否定していた」のである。著者の筆はほぼここで止まる。これだけ切れ味のいい評論が書ける著者にとっても、司馬の評価は難しいということなのだろう。


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