というのも、新谷編集長はもともと安倍首相の『美しい国へ』(文春新書)を仕掛けた担当編集者。第一次政権を電撃辞任した翌年、「文藝春秋」に寄せた難病を告白する手記も新谷氏によるものだ。そして「週刊文春」編集長になったあとも、政権スキャンダルを仕掛ける一方で、官邸関係者に深く食い込み、"新谷マター"といわれる官邸リークにのった記事も数多く掲載してきた。

 とすると、今回「新潮」が追及した山口記事の証言捏造疑惑をめぐる「文春」のチェックのゆるさもしかり、反論記事でも山口氏を徹底擁護して多くの疑惑をネグっているのもしかり、そして、政府と山口氏がすり合わせていたことについて黙殺しているのも、やはり、山口記事が背景に官邸を抱えていたからと考えるのが自然だろう。どう考えても、安倍首相の元番記者と元担当編集者の二人を結びつけた疑惑の"捏造記事"は、官邸のラインを通じて仕掛けられた可能性が大なのである。

 しかも、前述したように、この"捏造記事"は、詩織さんへの性暴力を引き起こしたのだ。仮に文春が山口記事を掲載しなければ、あの日、山口氏は詩織さんと食事をすることも、ホテルに連れ込むこともありはしなかった。"たられば"の話をしているのではない。山口氏は「文春」の記事によって安倍官邸の代理人めいたフリージャーナリスト活動を本格化させ、右派論壇で幅をきかせながら、安倍ヨイショ本も2冊出版、テレビにも引っ張りだことなり、政権擁護と野党批判をあらゆるチャンネルで垂れ流すようになった。その一連の"官邸御用ジャーナリスト"としての動きのなかで、レイプ問題での不可解な逮捕取りやめが起きたのだから、「週刊文春」と新谷編集長もその責任の一端を負っていると考えるべきだろう。

「週刊文春」は山口氏のレイプ問題について口をつぐんできたが、その端緒となった"スクープ捏造"にライバル誌がメスを入れたいま、あらためて、記事の経緯とレイプ疑惑について見解を示すべきではないだろうか。