欧州各国は戦後、多くの移民や難民を労働者として受け入れてきた。
しかし、経済成長が鈍り、社会問題が増加するに伴い、移民らへの批判や反発も強まっている。
今なお移民との「多文化共生」を維持しようとするスウェーデンと、外国人の排除にかじを切った英国の例を見た。(国末憲人)

色づき始めた秋の森を抜け、波静かな入り江を渡り、スウェーデンの首都ストックホルムの中心部から郊外電車で30分ほど走ると、
コンクリートの団地群が姿を現した。低所得の労働者が暮らす街ボートシルカだ。
人口の約55%はシリア、アフガニスタン、インドなどからの移民やその子どもたちで、国籍は160にも及ぶという。

8月、ここで深夜に犬を散歩させていた12歳の少女が射殺され、社会を揺るがした。
近くでは毎晩、武装した移民系若者らによると見られる発砲音が響いており、流れ弾を受けたと考えられた。
一帯の治安は数年前から悪化し、「行けない地域」(no-go zone)と呼ばれていた。

この事件にとりわけ衝撃を受けたのは、ボートシルカで住民の交流の場となってきた「多文化センター」だった。
問題を深刻に受け止めたスタッフのミカエル・モールベリさん(56)は、移民の代表者とともに、若者を集めて対応を考える場を急きょ設けた。

「今回の事件では『何かしなければ』との危機感を抱きました。若者の犯罪は確かに、この街の大きな問題です」

モールベリさんはそう認める一方で、事件を移民問題と結びつける考え方に釘を刺す。

「犯罪に走るのは、彼らが貧しいから。移民だからではない」

「多文化センター」は、移民の伝統を尊重した交流事業を多方面で展開しており、国外からの視察も多い。
その活発な取り組みは「開かれたスウェーデン」の象徴と見なされてきた。

モールベリさんは言う。「スウェーデン社会と移民との関係は、『移民は社会に適応すべきか』という問題に限らない。
地元社会の側も移民に適応していく必要のある、いわば双方向の関係だ。そうしてこそ、多文化共生も可能になる」





「みんなの文化を尊重」かえって溝広げた? 「多文化主義」問い直すヨーロッパ
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