取材記者たちが騒いだ判決文
判決当日、裁判官は、同業の法律家たちから批判されるのを覚悟で、大胆な主文を示した。
検察官が求刑していた懲役2年6か月を上回る、「懲役3年」の実刑を言い渡したのである。傍聴席の記者たちがどよめきの声を上げた。
「年間一万人もの命が交通事故で奪われながら、その被害者の命の重みは、法によって十分に保護されていない。まるで、駅頭で配られるポケットティッシュのごとく軽い」
「被害者の無念、命の尊さに比して、加害者は過保護ともいえる現状にあるといわなければならない」
「もはや、立法府による法改正を待っていられない状況にある」
判決文の読み上げは、約20分にも及んだ。被告人だけでなく、まるで社会全体に対する提言を発するかのような内容だった。
また、交通事故被害者の法的な扱いの軽さを「ポケットティッシュ」にたとえる独特の表現も、人々の印象に強く残るものとなった。
裁判官は後に、被害者の母から手紙を受け取った。
そこには「先生の判決で、生きる力をいただきました」と書き記されていたという。
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今年、煽り運転について厳罰化されるなど、交通事故・事件をめぐっての処罰は年々強化されている。
しかし、その厳罰化傾向と、死亡事故の減少という現代社会の成果は、おびただしい数にのぼる交通事故犠牲者の失われた命の上で成り立っているという事実を、決して忘れてはならない。
車やバイクのハンドルを握る方は、今日もまた、どうか安全運転でお願いいたします。