ネトウヨ化する老親

 私はいま49歳、実家の母は79歳になります。老親をもつ世代にとって心配の種はたくさんありますが、近年新たに浮上してきた問題は、老親の“ネトウヨ化”です。知らず知らずのうちに親がネトウヨになり、まるで別人になってしまったように会話ができなくなってしまう、という現象です。原因として考えられているのは、インターネットとテレビです。

 インターネットに関する研究で明らかにされた一つに、“エコーチェンバー効果”というものがあります。エコーチェンバーとは、閉鎖した空間のなかで同じ見解を持つ者だけが集まることで、異論が消失し、一つの見解だけが強化・増幅していってしまうことです。SNSのコミュニティーは気の合う者同士の集まりですから、異論や反論が排除されやすく、同意見の者だけで固まってしまいがちです。

 また、インターネット上ではフェイクニュースが日々生み出されていて、ネトウヨが喜びそうな嘘が蔓延しています。情報の真偽を検証する体力がなければ、気持ちのいい嘘に呑み込まれてしまいます。SNSがもっているこうした構造が、催眠商法やカルト団体に似たあやうい社会空間を生み出すということなのです。

ネットに適応できなかった”ネット右翼”
 さてここであらためて考えておきたいのは、“ネトウヨ”、“ネット右翼”という呼称です。これはネット上で右翼的な主張をするある人物が、自分はネット右翼だと自称したことから始まりました。この種の人々は匿名掲示板などで政治論争をしかけ、主張が論破されると荒らし行為に及ぶというはなはだ迷惑な存在になっていきます。

 そして主張内容ではなくその振る舞いの横着さから、疎ましがられる存在になりました。ここにはねじれがあって、彼らは主観的にはネット時代の右翼なのですが、客観的にはネット時代のコミュニケーションに適応できなかった前時代的な人々なのです。匿名掲示板やツイッターといった新しいコミュニケーション文化が、右翼思想の未熟さ厄介さを表面化させたと言えるでしょう。ネット右翼とは、客観的には“ネット未満右翼”であり、“ネット以前の人々”なのです。


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https://news.yahoo.co.jp/articles/62d00d569f6314084cf97c3d5c3d46e64c312042