「感染者バッシング」「自粛警察」「マスク警察」「帰省警察」……。世界で新型コロナウイルスが猛威をふるう中、なぜか特に日本社会で顕著な社会現象が相次いでいる。「コロナ禍で日本特有の『世間』が強化され、同調圧力がかつてないほど高まっている」と警鐘を鳴らすのは、「世間」評論家の佐藤直樹・九州工業大名誉教授だ。コロナ禍があぶりだした「世間」の闇とは……。

他国にはない「犯罪加害者家族バッシング」
 ――コロナ禍で起きている「自粛警察」や「感染者バッシング」は、日本に特有の現象なのでしょうか。

 ◆ここまで深刻なのは、日本だからでしょう。海外のテレビニュースでは、感染者が普通に顔を出し、実名で「みんなも気をつけて」などとインタビューを受けているでしょう? しかし、日本ではありえない。

 感染者の個人情報が暴かれ、ネット上でたたかれ、家族や通学先の学校や勤務先にまで抗議の電話や手紙が殺到する恐れがあるからです。

 コロナ禍の以前から、日本社会にはこういうところがあります。

 私は犯罪加害者の家族へのバッシングの問題をずっと追いかけてきました。4月に出版した「加害者家族バッシング 世間学から考える」にも書きましたが、犯罪加害者だけではなく、その家族までたたかれ、転居や、時には自殺にまで追い込まれる、こんな異様な現象は他国では見たことがありません。

 ――そういえば、米国では犯罪加害者の親など家族が顔を出してテレビのインタビューを受けていますもんね。しかも「私にも信じられない」などと答えていて、謝罪に追い込まれることもない。

 ◆そう。視聴者の方も、「家族といえども別々の人格」と認識しているからです。しかし日本では違う。「世間を騒がした、迷惑を掛けた」という点で「同罪」とされてしまう。だから家族までがたたかれる。

 しかし、この問題はこれまで見えづらかった。日本では犯罪率が低いため、犯罪加害者家族は圧倒的な少数派だからです。ところが今回のコロナ禍は誰もが感染しうる。つまり、今回は誰もが「当事者」というわけです。