令和納豆店長の朝は早い。
まだ水戸市内が寝静まっている午前2時、能村さんの姿はすでに調理場にあった。
令和納豆の調理場はシンプルだ。タイガーの炊飯器とIHコンロが一口。
無駄を極限まで削り、プロが選びぬいた結果だという。

まず、前日近所のスーパーで仕入れた特売品のパック納豆を慎重に開封する。
ここで少しでも振動を与えてしまったら、納豆の味が落ちてしまう。
能村さんは、特売品に拘る。
「特売品は納豆メーカーが最も買って欲しい商品、つまり最も良質な品なのです」
時には自転車を漕ぎ、往復2時間もかかるスーパーまで特売品を仕入れに行く。
その拘りは本物だ。

そして100円ショップで購入した小鉢に、一粒ずつ納豆を移していく。
一粒一粒丁寧に箸を操る能村さんの額に、汗が光る。
小鉢はもう10個目。能村さんは初めて笑顔を浮かべた。
作業が終了したのは、夜も完全に明けた6時30分だった。開店時間も近い。

しかし、能村さんの仕込みはまだ終わってはいない。
この店の売り物である、トッピングの移し替えがまだだ。
インスタント味噌汁用のお湯を沸かす作業もある。
炊飯器のスイッチも入れ、パックに入っていたタレを卓上に並べなくてはならない。

「毎日あんな時間から仕込みされるのですか、大変ですね。プロだからですか」
能村さんは質問に答えなかったが、その目には確かに職人の意地と矜持があった。