産経新聞8/19夕刊コラム■寺谷一紀が東京を蹴ったワケ 〜東京がでっち上げる偽りの大阪像〜 より

 「大阪はね、ゴミゴミした街だと決まっているんだよ。映像をかえなさい」
 上司であるプロデューサーのIさんが、眼鏡の奥の鋭い目を光らせて言いました。私は、開いた口がふさがりませんでした。平成元年の出来事です。
 その当時、私は東京の報道局で、ディレクターとして、短いドキュメンタリー番組の制作をまかされていました。大阪で「花の万博」が開かれるということを紹介する企画で、
総合テレビの全国ネットの番組です。私は、大阪の良さを全国にアピールする良い機会だと思い、大阪の美しい映像をふんだんに使いました。中ノ島から大阪ビジネスパーク、ベイエリアまで、それはまさに「水の都大阪」をイメージした、渾身の力作でした。
 その映像に、NHKの中枢たる東京報道局の上司が、いきなりクレームをつけたのです。大阪のイメージに合わないから、通天閣や道頓堀といった、もっとわかりやすい映像にし
ろという、まるで情報操作まがいの命令です。私はこの瞬間、東京のマスコミの、大阪に対する偏見と、ある種のコンプレックスを感じずにはいられませんでした。
 そうです。東京は大阪が嫌いなのです。逆もまた真ですが、前者の方がタチが悪い。情報のほとんどが、東京から発信されているからです。大阪といえば通天閣とタコ焼き、いつ
からそんな偏った大阪像が定着したのでしょうか。もちろん、通天閣もタコ焼きも大阪の大切な文化ですが、ごく一部に過ぎません。そればかりを強調して伝えるのは誤りです。
 とりわけテレビの影響力は絶大です。関西以外の人が大阪に抱くイメージは、一昔前の外国人が、日本をフジヤマ、ゲイシャの国だと勘違いしていた状況に似ています。あえてそういう「幻想」を作り上げているのです。
 歴史的にも、文化的にも、都市機能という点でも、大阪や関西の実力は相当のものです。その全体像を伝えず、ただ闇雲に東京を賛美する。そんな一部のテレビメディアこそが、日本の一極集中の元凶ではないでしょうか。