会員制交流サイト(SNSで誹謗中傷を受けた女子プロレスラー木村花さん=享年(22)=の死を受け、ネット上の中傷対策を巡る議論が進んでいる。自民党は侮辱罪の厳罰化などを政府に提言。
総務省は、新たな裁判手続きを設け、被害者からの請求で裁判所が発信者情報の開示の適否を判断する案を示した。7月に予定される政府有識者会議の中間取りまとめは、被害者救済と表現の自由とのバランスが焦点になる。対策はどうあるべきか、当事者らに聞いた。(聞き手・坂田奈央)

◆「強姦の共犯」「事件の犯人」20年以上も

 ―20年以上被害を受けている。ネット中傷対策で足りないことは。
「被害者を受け入れる場所がない。当初、法務省の相談窓口に電話をしても警察に行っても、実害がないという理由で『様子を見ましょう』と言われ続けた。
プロバイダー(接続業者)やサイト運営者に削除要請をしたが、一切応じてもらえなかった。
本名と並べて『強姦の共犯』『殺人犯』と書かれても、それは表現の自由の範囲だと説明を受けた。出口の見えないトンネルのようだった」

 ―救済まで時間も費用もかかる。総務省は、発信者の情報開示をより簡単にする裁判手続き案を示した。

「今は被害者の負担が大きすぎる。まず精神的な被害。心の傷を理解してもらえないジレンマが大きい。弁護士に相談する場合、裁判手続きを経て発信者を特定するまでに30万円ではきかない。一番スムーズでも3回裁判が必要だ。
SNS)運営事業者、通信事業者にそれぞれ発信者情報の開示を請求する。特定できたら、ようやく発信者を相手にした裁判になる」

 ―どんな対策が必要か。
「(インターネット上の住所にあたる)IPアドレスはSNS事業者がすぐに開示してもいいのでは。事業者からは、場所を提供しているだけとの説明をよく受けたが、媒体として利益を得ている以上、中傷を増長させた場所としての責任も負うべきだ。侮辱罪もぜひ厳罰化してほしい」

 ―表現の自由への影響を懸念する声もある。
「僕は『殺人犯をテレビに出すな』と言われ、決まった仕事がなくなった。表現の自由は大事だが、誹謗中傷とは別物だ」

 ―学校や企業でネットを巡る講演を行っている。
「目標は、加害者を減らすことで被害者を減らしていくこと。低学年から、子どもたちにネットモラル教育を行うべきだ。
誹謗中傷をしたら、されたらどうなるかを伝えたい。中傷された時は親や、たくさんの人に話すこと。話すことで親身になってくれる人、救ってくれる人に必ず会える」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/38509
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