先端技術の海外流出防止 政府補助、資金源の開示条件

政府は軍事転用可能な先端技術が大学から海外に流出しないよう対策を強化する。大学が国から研究開発費の補助を受ける場合は、
その研究室が外国の企業や政府から資金の協力を受けていないか開示を義務付ける。海外への技術流出の懸念があれば補助をしない方針だ。
経済安全保障を重視して中国の「経済スパイ」を警戒する米国に足並みをそろえる。

いま政府が大学の研究室に研究開発費の補助を出す際は、どのような国・企業から資金や人の協力を得ているか示す必要はない。
政府が補助をしている研究室でさえ、中国などの関与があるか把握できていない。

全国の大学に外国人留学生は約9万人、大学院には約5.3万人がいる。東京大学・大学院だけで19年11月時点で4千人以上に上り、そのうち中国籍は6割を占める。

ビッグデータの分析や人工知能(AI)の開発など理系の先端技術などでは中国人留学生が実質的に研究を支える例が多く、研究開発には中国人は不可欠な存在だ。

一方、経済産業省の報告書では、輸出管理規制がかかった技術や製品を無許可で持ち出そうとする外国人研究者の存在が指摘されている。
政府関係者によると、留学生の出身国の共著論文を精査した結果、中国の軍事組織との関係が確認された例もあったという。

先端半導体や化学品などは兵器やバイオテロなどに使えるほか、次世代通信規格「5G」もサイバー攻撃に利用できる。
研究成果を論文で公表しても、知的財産の確保や安全性を考えて、使う機材や物質、技術の一部を示さない例もある。
そうした場合に携わった人物から漏れる恐れがある。

米国では大学や研究機関に流出防止策の策定を求め、違反時は資金援助の制限や停止をする。
1月には米ハーバード大教授が中国の国家プロジェクトに関わったことを報告せず、虚偽の説明をした罪で起訴された。

トランプ米大統領が中国通信大手・華為技術(ファーウェイ)への警戒を示してからは中国企業の寄付や共同研究を停止する大学も増えた。

日本政府も米国を参考に新たな基準を設ける。科学技術振興機構(JST)や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など政府系4機関を通じて資金支援をする
すべての研究室について、海外から導入した資金の情報を開示するよう求める方針だ。

外国人研究者や留学生の詳細な研究歴の申告や、技術の流出防止策の準備を条件にする案も検討している。早ければ2022年度から適用する。

文部科学省によると、17年度の政府系機関から大学への公的補助は約2600億円で大学の研究開発費(3.6兆円)の一部だ。
とはいえ公的な補助は少額でも外部資金の呼び水になる例が多いため、疑念を持たれそうな関係は大学が自主的に遮断するとみている。

中国は「軍民融合」を合言葉に民間技術を軍事転用する戦略を掲げている。国民や企業が政府の情報活動に協力する義務を定める法律もある。
米国では中国人民解放軍が他国の大学に「経済スパイ」を送り込んでいるとの報告もある。

政府の統合イノベーション戦略推進会議(議長・菅義偉官房長官)がこうした方針を今月中に示す。政府は1年程度かけて研究開発予算のガイドラインを改定する。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60686450T20C20A6MM8000/