1997年、韓総連(韓国大学総学生会連合)の発足式が開かれる予定だった大学で、23歳の旋盤工が警察の手先と誤認され、なぐり殺された。
韓総連の学生らは寝袋に被害者の体を詰め、水をかけながら9時間もなぐり続けた。被害者が意識を失うと、鼻に催涙粉末を入れた。
学生らは、被害者を病院の救急室へ放り出すようにして逃げた。死因は過度の皮下出血。解剖医は「全身の筋肉と脂肪がつぶれていた」と驚いた。
暴行を制止する学生に、韓総連幹部はこう言ったという。「今は戦争状態だ。人倫を考える暇はない」

1980年代から90年代にかけて韓国の大学街を掌握した「主思派」の内部行事は、「偉首金同」(偉大なる首領・金日成〈キム・イルソン〉同志)万歳三唱と、「長白山の山並み、血のにじむ足跡」で始まる金日成賛歌で始まった。
彼らにも、北朝鮮の権力世襲、偶像化、人権弾圧に対する悩みがなかったわけではないだろう。だが「敵の敵は同志」という認識の方が強かった。
「軍事独裁よりはましじゃないだろうか」と、北朝鮮の野蛮には沈黙した。

彼らが韓国の権力を握った。もう3度目だ。ならば今度こそ、「敵の敵は同志」という認識から抜け出すべきだ。北朝鮮の政権の野蛮に対しても批判しなければならない。
だが、全くそうしていない。あれほど民主・人権を叫んできた人々が、おかしなことに、北朝鮮に対しては「民主と人権の例外地帯」と認めてやっている。
「良好な南北関係」を守るためだという。南北関係が「民主」「人権」より優先するというのだ。

北朝鮮だけではない。香港市民が中国の暴圧に対し絶叫しているにもかかわらず、民主化勢力だという民主党は今まで論評一つ出していない。
香港では「君のための行進曲」が響き渡ったが、韓国の学生運動出身勢力は口を閉ざした。代わりに「中国と運命共同体になりたい」と言う。
その理由は「韓中の経済関係が重要だから」だという。学生運動出身勢力は「民主」「人権」より「経済」の方が重要というのだ。

政権関係者らは、軍隊を動員してでも対北ビラを防ぎたいという。ビラ散布を巡って「公有水面法違反」「航空安全法違反」で処罰したいという。
表現の自由という民主主義の根本価値、北朝鮮住民の人権という普遍的価値を、強制力で押さえ込みたいというのだ。

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彼らにとって、民主主義と人権は本当に最高の価値だったのだろうか。そうでないなら、権力を握るための道具にすぎなかったのだろうか。