鈴木 貞夫

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5月7日の羽鳥モーニングショーで,WHO関係の渋谷氏,大学教授の岡田氏らが,これから日本のPCR検査を増やすべきという主張を繰り広げた.
私は医学部で公衆衛生学を教えており,専門は非感染性疾患の疫学である.疫学的見地から,ふたりの主張がどうしても正しいとは考えられず,以下に私の考えを記す.
他の同業者はどのように考えているのだろうか.今回の主張に関して「日本の大学医学部で実際に疫学を教えている教授」にアンケートでも取って是非を問いたいくらいである.

はじめに,番組で使われた「人口10万人あたりのPCR検査数」のグラフを見ていただきたい.
https://i.imgur.com/qDqN8xE.jpg

どういう感想をお持ちだろうか.おそらく,「韓国が思ったより少ない」と思った人が多いと思う.
ここで,日本を除く7か国について,「検査を多く実施している」と思う国を挙げてもらいたい.おそらく,韓国とドイツを挙げた人は多いだろう.また「イタリアが首位」ということに違和感を抱く人も多いと思う.

番組で使われたデータは「人口10万人あたりの」の検査数である.疾患の発見を目的とした検査は,その疾患がどの程度流行しているかによって必要な数は変化する.
流行状態の異なる地域で「単位人口あたり」の検査数を比較しても,それは,流行地では多くの検査が必要で,実際多く行われているという事実を見ているに過ぎない.

ここで,分母を,「人口あたり感染者数」,「人口あたり死亡者数」に変えてみる.
https://i.imgur.com/ehMWMvT.jpg

感染者ひとりあたりの検査数は,「感染者をひとり見つけるために何回検査をしているか」を示しており,これが低いほど,疾患が流行しており,より多くの検査が望まれるという指標である.
逆に,高ければ検査は充足している代わりに発見効率は低くなっている.
日本を除く7か国での順位は,韓国,ドイツ,イタリア,アメリカ,スペイン,イギリス,フランスの順である.韓国,ドイツがツートップであり,感覚と一致する.
赤線が番組で使用された人口10万人あたりの検査数である.

感染者ひとりあたりの検査数と現時点の流行具合から考えて,日本は韓国には及ばないものの,ドイツより十分な検査が行われていると考えられる.

(続く)