アメコミヒーロー映画は、世界的にメガヒットして、しばしばエンタメニュースで話題になるほどだ。しかし、米本国や
世界での超メガヒットに比べて、日本での興行成績はそれほどでもない……と感じることも多い。なぜこのような事
態が起きているのか。映画・音楽ジャーナリストでアメコミ映画にも詳しい宇野維正氏に聞いた。

「まず大前提として、海外、特にアメリカにおける“ヒーローもの”というのは現実社会のアナロジー(類推)です。その
時代の社会で起きていることを反映した、ひとつの神話化のプロセスが、アメコミヒーローの物語であると。当然、ギ
リシャ神話やシェイクスピアの影響も受けている。神話上の英雄(ヒーロー)なので、ほとんどの作品において、その主人公は成熟した“大人”です。

ところが、日本において“悪をやっつける”ヒーローものの主人公は、多くが少年です。『機動戦士ガンダム』『ドラゴン
ボール』『名探偵コナン』『新世紀エヴァンゲリオン』、すべてそうですよね。日本以外の海外では、“少年や少女がヒ
ーロー”というのはかなり異例なのです。でも、日本人はそれにずっと慣れてきました」

日本人は「未熟な少年性」に価値を見出す。言われてみれば、たしかにそうだ。

「欧米の若者は『早く大人になりたい』と思っていますが、日本の若者は『いつまでも子供でいたい』と思っている。大
人ですら『子供に戻りたい』と口にする。こんなこと欧米の人は絶対に言わないですよ。だって、子供に戻ったらマリ
ファナも吸えないし、セックスもできない(笑)。このギャップは確実にあります」

ヒーローものの主人公は少年であり、そもそもヒーローものとは、イコール子供向けのアニメや特撮である――。
それが長らく日本人の常識だったのだ。

「だから日本人は『バットマン』にしろ『アイアンマン』にしろ、『いい大人がヒーローなんて』と見くびってきた。アメコミ
ヒーロー映画が長らく受け入れられなかった背景のひとつだと思います」(宇野氏)

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