「嫌韓は高齢者に多い」というのは専門家たちが話題にしていたことなのですが、それを裏付けるような数字です。ヘイトスピーチ対策に取り組んでいる神原元・弁護士は
「ヘイトスピーチは若者が憂さばらしでやっているというのは勘違いだ。むしろ、ある程度の社会的地位を持つ50代以上というケースが多い」と指摘しています。
直接的なヘイトスピーチというほどではないものの、冒頭に紹介した男性のケースも同じでしょう。

 ◇「昔の韓国」イメージが嫌韓を生んでいる?

 では、どうしてなのか。これは、なかなか難しいところです。まだまだ検証が必要なのですが、1980年代末から韓国にかかわってきた私の感覚では、
「昔の韓国」のイメージが作用しているのではないかと感じています。80年代までの日本で韓国に持たれていたイメージは「軍事政権」というネガティブなものでした。

 それに対して90年代後半以降に成人した世代には、K-POPに代表されるような発展した国という明るいイメージしかありません。
90年代末に慶応大の小此木政夫教授から「最近の学生はソウル五輪以降のイメージしか持っていない。我々の時代とは全く感覚が違う」と聞いたことがあるのですが、まさにそうした違いでしょう。

 そして「昔の韓国」は、経済的にも、政治的にも、日本とは比べものにならない小さく、弱い存在でした
。それなのに、バブル崩壊後に日本がもたついている間に追いついてきて生意気なことを言うようになった。
そうした意識が嫌韓につながっているのではないか。そう考えるのが自然なように思えます。67年生まれの私と同世代だという神原弁護士も、同じような感覚を持っているそうです。

 この男性は定年退職後に、ネットサーフィンをする中で嫌韓的なブログを読むようになったといいます。
男性はブログを書いている人物を「保守右翼の大物」だと感じるようになり、「信者」としてブログの指示通りに懲戒請求などを送り続けました。
「自分なりの正義感と、日本のためによいことをしているという一種の高揚感もあった」そうです。当時の心境については、「それまで多かった友人や、
仕事の仲間、取引先というものが、65歳をすぎて一切なくなってしまった。社会に参加していない、疎外されているようなところがあった。
しかし、(ブログに従う行動を取ることで)自分は社会とつながっているんだという自己承認を新たにしたというような意識が働いて、
一線を越えてしまったのではないか」と振り返りました。

 なかなか難しいところです。神原弁護士は「社会から疎外されたという感覚を持ったとしても、嫌韓以外にもはけ口はある。
やはり『昔の韓国』のイメージを持っている世代ということが大きいのではないか」と言います。

 私も同感ではあるのですが、一方で、九州選出の自民党国会議員から「現役時代には常識的だった県庁職員が定年退職してから激しい嫌韓発言をするようになって驚いた」という話を聞いてもいます。
それ以外にも、
さまざまな要因があるのでしょう。もう少し取材を続けてみたいと思います。【毎日新聞外信部長・澤田克己】