古市「財務省の友だちと、社会保障費について細かく検討したことがあるんだけど、別に高齢者の医療費を
全部削る必要はないらしい。お金がかかっているのは終末期医療、特に最後の1ヵ月。だから、高齢者に
『10年早く死んでくれ』と言うわけじゃなくて、『最後の1ヵ月間の延命治療はやめませんか?』と
提案すればいい。胃ろうを作ったり、ベッドでただ眠ったり、その1ヵ月は必要ないんじゃないですか、と。
順番を追って説明すれば大したことない話のはずなんだけど、なかなか話が前に進まない」

落合「終末期医療の延命治療を保険適用外にするとある程度効果が出るかもしれない。たとえば、
災害時のトリアージで、黒いタグをつけられると治療してもらえないでしょう。それと同じように、
あといくばくかで死んでしまうほど重度の段階になった人も同様に考える、治療をしてもらえない――というのは
さすがに問題なので、コスト負担を上げればある程度解決するんじゃないか。延命治療をして欲しい人は
自分でお金を払えばいいし、子供世代が延命を望むなら子供世代が払えばいい。今までもこういう議論は
されてきましたよね」

古市「今の政権は社会保障費の削減にはあまり関心がないでしょ。あと、それを実現しようとすると、
日本医師会が反対すると思う。日本医師会は最強のロビーイング団体とも言われている。頭が良くて、
お金もあって、時間まである人たちの集まりだから。日本では医療費の7割、後期高齢者の医療費なんて
9割は公的負担だよね。つまり医者って後期高齢者に対しては9割公務員。しかも本当の公務員と違って、
患者を治療するほど儲かる仕組み。だから、日本医師会がロビーイングを頑張るのはとても合理的だと言える。
政治家や財務省も、医師会を敵に回してまで予算を圧縮しようとは思わない。そして高齢者の家族も、
病院が面倒をみてくれるならいいかなと考える。こうやって、複数のアクターがそれぞれの目線で
合理的な行動を取る結果、既得権益が維持されてしまう」

文學界 2019年1月号
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