また、

暴力には「否認」の問題がある。自分の身に起きたことを暴力であると認識することで、被害者は精神的に厳しい状況に追い込まれることがある。
そのため、被害者は意識的または無意識的に「これは暴力ではない」と思い込む。
その結果、自分に起きた暴力も、他人に起きた暴力も、暴力と認識されない。

と言っているのだが、これで調査結果を否定することはできない。
被害者は自分への暴力を精神的な理由で否認することがあっても、被害者では無い人が他人への暴力を精神的な理由で否認する理由は無い。
小松原氏は理解できていないようだが、津島教授が『日本の調査では女性が「自分の被害」だけではなく
「身近な人の被害」についても「聞いたことがある」と答える割合が低い』ことを主張したのは、
この精神的な理由によるバイアスが入っていないことを指摘するためであろう。

小松原氏はさらに、

北欧・フランス・ドイツなどの「女性に対する暴力」の割合が高い国に比べて、日本の対策が十分だという人はほとんどいない

から、日本で女性への暴力は少ないことは承服し難いと言っているが、これは因果が逆の可能性、
つまり女性への暴力が多い国ほどその対策を迫られた結果、対策が充実した可能性がある。
反乱分子の多い中国の警察予算は防衛予算を凌ぐのだ。

小松原氏は社会運動もしているので問題が矮小化される気がして落ち着かないのかも知れないが、
欧州の半分とは言え少なく無い被害女性がいるのは間違いないので、フェミニズムに基づく運動が不要になったりはしない。
これはこれで聞いておけばよいと思う。
EUの調査を含めて有効回答率は低めなので調査自体に限界もあるが、こういう調査が無いと何も議論できないし。
なお、東欧は開発経済ではなく移行経済と言う方が普通である。

おっと書き忘れがあった。ジェンダー社会学以外の話をインプットするのは良いことだと思う。
日本では女性への暴力が多いと聞くのを「大変楽しみにしていた」のであろうが、自説を補強する以外の情報も大事だ。