だが、全6分野のノーベル賞のうちで平和賞ほど賛否両論が激しく飛び交う賞も珍しい。受賞者の適格については絶えず議論の的となった。
ミャンマー民主化活動家のアウン・サン・スー・チー女史がその一例だ。反独裁闘争と人権運動の功労で1991年に平和賞を受賞したが、
2015年に実権を握った後は少数民族(ロヒンギャ)の虐殺を黙認したという批判を受けた。平和賞剥奪要求まで出るほど、一瞬の光栄の後にそれよりも大きな不名誉を得た。
オバマ前大統領の場合も、2009年就任3カ月で「核兵器のない世界」を宣言したという地味な功労だけで平和賞を受賞して適格論争が起こった。
その後、イラク戦争およびアフガニスタン戦争終戦宣言、イラン核交渉妥結で遅まきながら体面を保った。

韓国社会でも平和賞は深刻な問題だ。金大中(キム・デジュン)元大統領が史上初めての南北首脳会談が開かれた2000年にノーベル賞を受賞すると、
元国家情報院の職員は「金大中政府時代、国家情報院がノーベル賞受賞のための秘密工作をした」という疑惑を2003年から繰り返し提起してきた。
昨年、文政権となってからは国家情報院改革委員会が「李明博(イ・ミョンバク)政権時に国家情報院が金大中平和賞取り消し工作をした」と暴露した。
ノーベル賞をめぐって情報機関まで登場するほど、韓国でノーベル賞は揮発性の強い政治・社会イシューになった。今回も同じだ。今年3月、ある民間団体は
「文在寅大統領ノーベル平和賞推進委員会」結成のための発起人会合を開こうとしたが、直後に青瓦台(チョンワデ、大統領府)に反対請願が投稿されて取り消すハプニングが起きた。

受賞者の発表が迫ると韓国ネットユーザーの間で再び賛否の舌戦がヒートアップしている。こうなれば、平和賞が韓半島の平和を促進するどころか国内葛藤を
激化させるのではないかと心配になるほどだ。事実、平和賞受賞は良いことだが、平和賞が平和を保障するわけではない。たとえば、イスラエルと
パレスチナ指導者3人がオスロ平和協定締結に寄与した功労で1994年平和賞を共同受賞したが、中東の平和は今も遠いままだ。金大中元大統領のノーベル賞受賞からわずか
2年後、第2次北核危機が高まり北朝鮮の核開発はさらに速まった。